研究紹介

インタビュー

テロメラーゼの発現が不死化のカギ

テロメアが短縮しつづけ限界に達すると、がん抑制遺伝子であるRbやp53の機能が活性化してくることがわかってきた。細胞の老化が進むことで、がん細胞の増殖が抑えられる方向にむかうのだ。その一方、培養細胞系において通常はどんどん短縮するテロメアに、テロメラーゼという酵素(遺伝子)を付加するとテロメアが伸ばせることがわかってきた。
テロメラーゼが発見された当初は、その活性自体を測定することが非常に困難だったが(大量の細胞が必要だったり、アイソトープという大がかりな装置をつかわねばならなかった)、1994年に開発されたTRAP(トラップ)法を国内でもいち早く研究室が導入したことでテロメラーゼの活性測定が1日でできるようになった。その結果「がん細胞ではテロメラーゼの活性が非常に高く、正常細胞ではほとんど活性化していないことがわかってきた。これは診断でもつかえる、と思ったのです」と田原教授はふりかえる。
従来、がん遺伝子やがんウィルスをいれて細胞をがん化させなければ細胞の不死化は起こらないとされていたが、テロメラーゼを加えるだけで細胞が不死化する。テロメアを伸ばすことが不死化と直結する――このことが培養細胞レベルではなく、われわれの体内でできれば、ふつうなら短縮していくだけのテロメアを伸ばすこともできるし、そうなれば部分的な老化の回避は可能となる。
それをモデル的に示した例が、いま話題のiPS細胞だ。山中4因子を入れるとリプログラミングが起こってリセットされ、いろいろな細胞に分化しうる細胞ができる。このとき、テロメラーゼがオンになっていない状態、つまりはテロメア長がリセットされなければどうなるか。たとえば高齢の人の、テロメアが短い細胞をiPS化しても、多少は細胞が増殖するだろうが、その細胞を分化させていろいろな再生医療に用いるのはかなり厳しい。「iPS化ではテロメラーゼが必ずオンの状態で、テロメアが長くなることが必須です。テロメアが長いiPS細胞のほうが分化能もよくていろいろにつかえるということは論文でも発表されています。そのことからも、テロメア長と老化とがかなり密接につながっていると言っていいでしょう」と田原教授は解説してくれた。
大学院生時代から老化との流れでテロメアの研究をつづけてきた田原教授だったが、バイオロジーの世界でmiRNAがしだいに注目されるようになってくると、「これほどいろいろな発生やウィルス、免疫にもかかわっているのなら、エイジングにもかかわっていないわけがないと思いました。そこで、まずはin vitroの実験系で、老化に関係するmiRNAがないかを探ることにしたのです」と、当時をふりかえる田原教授である。

注釈
【テロメラーゼ】
テロメアの反復配列を伸ばす酵素(遺伝子)。1985年、ブラックバーン、グライダー、ショスタクが発見。3人はこの業績で2009年ノーベル医学・生理学賞を受賞。

【がん抑制遺伝子】
細胞のがん化を抑える遺伝子のこと。以下に2例を挙げる。
p53:1989年にがん抑制遺伝子として認められた。pはprotein(タンパク質)の頭文字、1979年英国王立がん研究所のレーンが発見したときにつけた仮の名称がそのまま定着。
pRb:網膜芽細胞腫(retinoblastoma)の原因究明をしていた米国フィラデルフィアがん研究所のクヌーツソンがたてた仮説にもとづき、マサチューセッツの眼科医ドライジャらが発見したがん抑制遺伝子。

【iPS細胞】
人工多能性幹細胞:2006年に命名された。ヒトの体細胞に多能性をもたらす遺伝子を導入してES細胞(胚性幹細胞)様に変化した細胞のこと。再生医療の主役になるとして大きな期待が寄せられている。

【山中4因子】
京都大学の山中伸弥教授が発見した4つの遺伝子のこと。体細胞に多能性をもたらす遺伝子候補24種類からさまざまな実験により絞り込みに成功(2006年)。翌年にはヒトのiPS細胞をつくるのにも成功した。