研究紹介

インタビュー

「老化」誘導のヒントはテロメア研究から

田原栄俊教授がmiRNAに注目したのは、もともと老化をテーマに研究を始めたのがきっかけだった。大学院生時代、細胞周期や老化を研究していた井出利憲教授の下で博士論文のテーマでもある老化や不死に関係する遺伝子を探すなか、テロメアが加齢とともに大事だということに気づき、必然的にテロメアに注目するようになったという。
テロメアは、その全長が寿命と関係していることや細胞分裂のたびにどんどん短くなっていることがわかっている。テロメアの短縮は老化の大きな因子である。
田原教授は「テロメア」を説明するとき、次のような表現をつかう。「われわれの体の中にある細胞をのぞいてみると核があり、核の中に遺伝子情報がおさめられている。その遺伝子情報がのっているのがDNAで、DNAが格納されているのが染色体。この染色体は簡単に言えばXのような形をしていて、すべてのXの4つの端の最先端がテロメアである」
だれの染色体の端にも必ずテロメアがあり、このテロメアが細胞の寿命をきめる。細胞にある染色体は22本プラスXXないしXY、そのどこであろうが最も短いテロメアがその細胞1個の分裂回数をきめる。組織によっても異なるが、それがだいたい平均して70回程度になる。
「いわゆる『歳をとる』というのは、いろいろな臓器でのテロメアが短くなっていくことであり、これが個体の老化につながります。とはいえ、テロメア全長の短縮はゆっくりと進む。20歳のテロメアからいきなり80歳のテロメアになるわけではありません」
テロメアにはテロメアDNAというものがある。ヒトの染色体Xの二本鎖の端はいずれもTTAGGGの6塩基配列が繰りかえされている。さらに細かくみると、この配列の最先端はTTAGGGが一本鎖となり尻尾(tail)のような形をしていて、G-tailと呼ばれている。そしてG-tailの先端は、細胞が分裂するときのDNAの二本鎖部分が割れてふくらんだ箇所にもぐりこむループ構造をとっている。正常なDNAに放射線があたって切れると「修復」が始まるのと同様、G-tailが一本鎖で伸びたままだと、そこも傷ついた箇所と認識されて勝手に修復が起こるおそれがあるからだ。
G-tailの先端には少し切れ目があり、この部分をTRF2などのタンパク質からなるシェルテリンと呼ばれるタンパク質複合体が覆っている。もしこの先端が短くなってしまうと、二本鎖の中にもぐりこめなくなる。田原教授はこのG-tailの先端を糊代(のりしろ)に、TRF2を糊にたとえた。「先端がなくなると図画工作でいう糊代の部分がなくなるわけで、たとえ糊があっても糊代がなければもぐりこめません。逆に言うと、糊がたくさんできれば、仮にテロメアの長さが短縮されても先端(G-tail)は外れにくくなり、細胞老化の遅延につながるのです」


とはいえG-tailは、常にループを巻いている状態ではないという。「複製するときにはループが外れ、複製後にまた戻すことを繰りかえします。さまざまな形でDNAがダメージを受けるとこのループ構造も壊れやすくなり、たとえテロメア全体が長くてもG-tailの短縮が起こります。その場合も染色体の不安定性につながっていくのです」
テロメアが短くなるにつれG-tailも短くなる。するとループ構造も不安定となって壊れやすい。それは染色体の不安定性につながり、細胞がもつ機能が低下する。細胞が集まったものが組織ですから、細胞レベルでの染色体の不安定性は、組織レベルでの機能低下をまねき、これがひいてはさまざまな疾病につながる。テロメアが長いとG-tailも平均して長いそうだが、このG-tailがもつ構造そのものもまた、いかに重要かがわかる。

注釈
【DNAの修復】
DNAは紫外線などのダメージによって傷つけられても、すぐさまDNA修復酵素(遺伝子)によって修復作業が始まるために細胞は容易にがん化しない。このDNA修復酵素はがん遺伝子でもがん抑制遺伝子でもない。