研究紹介

インタビュー
MOB1は、皮膚がんの原因遺伝子の1つ

哺乳類のMOB1には、互いによく似た機能をもつMOB1AとMOB1Bの2種類がある。鈴木教授たちは、この両方の遺伝子を、全身の細胞で完全にノックアウトしたマウスの作製を試みた。ところが、このマウスは胚が親マウスの子宮に着床する時期に死亡してしまい、がんの発症メカニズムの研究はできなかった。

そこで、MOB1AとMOB1Bの一方だけを全身の細胞で完全にノックアウトして、残る一方は、2本鎖の遺伝子の片側の鎖だけをノックアウトした部分欠損マウスを作製した。このマウスは加齢とともに様々な種類のがんを発症したが、特に外毛根鞘がんという非常に珍しい皮膚がんが、すべてのマウスで発症した。

MOB1は外毛根鞘がんと深い関係があるのではないか。そう考えた鈴木教授たちは、ヒトの外毛根鞘がんの組織サンプルでのMOB1の発現を調べた。その結果、約半数の組織サンプルでMOB1の変異や顕著な発現低下が見られたため、MOB1が外毛根鞘がんの原因遺伝子の1つであると特定された。外毛根鞘がんの原因遺伝子は、これが世界で初めての報告だった。

MOB1が、がん抑制遺伝子であることを特定

さらに鈴木教授たちは、時期特異的・組織特異的なノックアウトマウスを作製した。マウスが生まれた後や、皮膚の表面を覆っている角化上皮細胞だけでMOB1A、MOB1Bをノックアウトしたのだ。このマウスを解析すると、本来は皮膚の角化上皮の基底部にあり、角化上皮のもとになる未熟な細胞が顕著に増加していた。

【正常なマウスとMOB1をノックアウトしたマウスの皮膚の比較】

左の列は正常なマウス、右の列はMOB1ノックアウトマウス。段ごとに異なる種類の細胞を緑色の蛍光色素で染色している。(ⅰ)-(ⅵ)では、未分化な細胞を染色している。正常マウスでは皮膚の基底部に分布する細胞が、MOB1のノックアウトにより顕著に増加することがわかる。(ⅶ)と(ⅷ)、(ⅸ)と(ⅹ)は、分化の進んだ細胞を染色している。これらの比率は、ノックアウトマウスでは減少している。

加えて、MOB 1のノックアウトによりHippo経路が作動しなくなり、隣り合う細胞どうしが接触して外部から物理的な力刺激が加わった場合も、細胞の増殖が停止しにくくなっていた。また、アポトーシスが起こりにくくなっていることも明らかになった。「これらの異常はすべて、がん細胞の特徴にあてはまっています。MOB1タンパク質はヒトのがんで発現消失が起こっており、逆にMOB1をノックアウトしたら、がんが発症したわけですから、MOB1はがん抑制遺伝子だと直接証明できたことになります」と鈴木教授。ノックアウトマウスと、他の実験結果を合わせて、新たながん抑制遺伝子を特定することに成功したのだ。

実は、上で述べた外毛根鞘がんを発症するノックアウトマウスの一部は、骨肉腫や乳がん、肝がんなども発症する。これらにもMOB1がかかわっている可能性は高い。そこで、鈴木教授たちは、現在、皮膚以外の組織でMOB1をノックアウトしたマウスの作製を進めており、様々ながんの発症メカニズムを解明していく予定だという。