研究紹介

インタビュー
「カバ」に由来する名前をもつがん抑制経路

鈴木教授が現在最も力を入れているのは、近年注目を集めているMOBというがん抑制遺伝子だ。MOBタンパク質は、LATSキナーゼのアダプタータンパク質であり、LATSキナーゼ活性を強力に増強し、MSTキナーゼ、SAV1とともに、Hippoシグナル経路のコア複合体を形成する。

隣り合う細胞が接触するなどして、細胞に外部から物理的な刺激が加わった場合にHippo経路が作動し、ふだんは核内に分布している転写共役因子YAP1とTAZを細胞質へと局在変化させたり、これらをタンパク質分解させる。YAP1とTAZはともにがん遺伝子に由来するタンパク質であり、核内で働いている場合は細胞の増殖に作用してがん化を促進するが、Hippo経路が作動するとその機能を失い、細胞増殖が抑制される。このようにHippo経路は、器官サイズの制御やがん化の抑制に作用する。

【Hippo経路の活性化】

隣り合う細胞が接触するなどして細胞外部から物理的な刺激が加わると、MSTキナーゼが活性化されて、MOBをリン酸化する。リン酸化されたMOBは、LATSキナーゼに作用し、MST1によるLATSのリン酸化を促進する。このように活性化されたLATSキナーゼは細胞増殖を促進するYAP1とTAZをリン酸化する。リン酸化されたYAP1とTAZは核内から細胞質へと局在変化したり、タンパク質分解されたりして、細胞増殖を促進する機能を失う。

元来Hippo経路はショウジョウバエで発見された。この経路の異常により、ショウジョウバエの眼が「カバ(英語でhippopotamus)」の皮膚のような形状に変化することから、Hippo経路と名付けられたようだ。

しかし、MOBの正常な生体での機能は、これまで知られていなかった。また、Hippo経路内で働くMOBの1つであるMOB1は、一部のがんでは発現レベルが低下していたり、変異が生じていることが知られていたため、新たながん抑制遺伝子なのではないか、と注目されていた。

注釈
【アダプタータンパク質】
シグナル伝達に関与するタンパク質の一種 で、シグナル伝達分子と結合し、そのリクルートを行うと共に、受容体とシグナル伝達分子の会合を仲介する。

【キナーゼ】
タンパク質をリン酸化する酵素。

【転写共役因子】
DNAと転写因子とが転写開始複合体を形成する際に、両者を結びつける働きをするタンパク質。