研究紹介

インタビュー
がんゲノムからわかってきたこと

これまでのがんゲノム研究で、明らかになったこともある。柴田分野長の研究から、そうした知見を紹介していこう。柴田分野長の研究グループは、国際がんゲノムコンソーシアムに参加し、肝臓がんの解析を担当してきた。日本では年間約4万人が肝臓がんと診断され、3万人以上が亡くなっている(2011年国立がん研究センター がん対策情報センター調べ)。アジアに多く見られるがんで、おもな原因は肝炎ウイルスの持続感染だが、非ウイルス性で原因不明の場合もある。

柴田分野長が2012年にNature Genetics誌に発表した研究では、後述の次世代(第二世代)シーケンサーを使用して、肝臓がん27症例の全ゲノムDNAの塩基配列を解読した。その結果は、1個の腫瘍につき、塩基配列の置換や欠失といった変異の数が約11,000個にも上るという驚くべきものであった。これらの変異を総合的に分析するために、柴田分野長たちは、塩基配列がどのように置換されているかというパターンに注目して解析した。

その手法は、イギリスのGreenmanたちが開発したもので、A、T、C、Gの塩基配列が置換されるパターンに着目して、塩基置換の1つ1つを6種類に分類するものである。この手法により、27症例の肝臓がんにおいては、T→C/A→GとC→T/G→Aという塩基置換パターンが多いことがわかった。さらに、このデータを主成分分析という数学的方法で解析すると、塩基置換パターンは肝炎ウイルスや飲酒習慣などの因子と相関することが示せた。

【6種類の塩基置換パターン】

塩基置換パターンは一見すると、6種類ではなく12種類のようだが、AとT、CとGは相補的な二本鎖であるため、例えばT→Gの置換とA→Cの置換は識別不能である。そのため、パターンは上記の6種類となる。

【肝臓がん症例に見られるがんゲノムの塩基置換パターン】

この図は11の症例(4T〜17T)のデータを例示したもの。いちばん上の全変異数のグラフでは、いずれの症例も1万以上の変異をもっている。2つめの塩基置換数のグラフ、3つめの塩基置換の割合のグラフでは、青いバー(T→C/A→G)と赤いバー(C→T/G→A)の変異が多いことがわかる。

さらに、この塩基置換パターンによる分析を、肺がん、胃がん、皮膚がん、乳がん、卵巣がんなどの他のがん種で行い、それらのがんゲノムを再分類してみると、喫煙、紫外線、ピロリ菌感染といったがんの原因とがんの種類の相関が得られた。つまり、がんゲノムの塩基置換パターンを用いれば、がんの原因を推定する方法を開発できる可能性が見えてきたのである。

【塩基置換パターンの主成分分析】

塩基置換のパターンを分析することにより、種々のがんと紫外線、ピロリ菌感染、喫煙などとの相関が見えてきた。

そのほかにも、例えば1人の肝臓がん患者の肝臓であっても、腫瘍の部位によって塩基置換パターンが異なることがわかった。このことから、がんゲノムの変異が部位ごとに別々に発生していることがうかがえる。また、DNAの二重らせんの2本の鎖のうち、転写の鋳型となる鎖とその反対の鎖では、変異の起こりやすさに違いがあることもわかった。「鋳型鎖の変異はタンパク質合成に影響が出やすいので、何らかの選択圧が働いて抑制されるのではないかと想像されます」と柴田分野長はいう。ゲノムの場所と変異の起こりやすさの関係については、次に紹介する研究でより詳細に解析している。

注釈
【国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC:International Cancer Genome Consortium)】
2008年に発足した国際的ながんゲノム研究共同体。50種類のがんについてゲノムを解読し、そのデータベースを世界の研究者に公開することを目的としている。現在15の国と地域が参加。日本からは国立がん研究センターと理化学研究所が共同で参加。