研究紹介

インタビュー
抗がんRNAアジュバントの実用化を目指して

しかし、合成は簡単ではなかった。「長いRNAを合成するのは難しく、50塩基でもなかなかつくれないのですが、私たちがつくりたかったのは100塩基くらいのRNAです。世界中でもそんな長いRNAの合成は困難とされていますが、私たちは企業との共同研究によって試行錯誤した末、5、6年かけてやっと条件を満たす長鎖RNAを合成することに成功しました」と松本准教授は話す。また、二本鎖RNAの投与は、「RNA干渉」を引き起こす可能性がある。RNA干渉とは、二本鎖RNAが特定の遺伝子の発現を抑制する現象だ。RNA干渉を起こさないように、すでに予防接種に使われているウイルスワクチンの配列を参考にするという工夫もした。

この合成RNAは、ARNAX(アルナックス)という名前で、現在、日本を含めて世界4ヵ国で特許出願中である。ARNAXは、RIG-I/MDA5経路は活性化せず、樹状細胞のTLR3に認識され、TICAM-1を介してNK細胞を活性化し、抗原提示を増強してCTLを誘導する。このメカニズムは、生体内でもちゃんと働くのだろうか。効果や副作用はどうなのだろうか。瀬谷教授らはマウスを使って確かめた。「マウスのがん細胞を移植した担がんマウスにARNAXを投与すると、polyI:Cに匹敵するほどの抗がん効果を示しました。特に、ARNAXと抗原を併用して投与すると劇的に効き、腫瘍の退縮が見られました。また、polyI:Cの場合、投与すると全身性のサイトカインが大量に産生されますが、ARNAXはマウスに投与しても、ほとんど副作用は見られませんでした」と瀬谷教授は言う。

現在、瀬谷教授らは企業と共同で、ARNAXの大量化学合成法の確立を進めているところだ。また、前臨床試験として、げっ歯類やマーモセットでの毒性・有効性試験も進めている。 「患者さんに使うには、ヒトでの試験で副作用や有効性をみてみないといけないので、まだ道のりは長いですが、TLR3のRNAアジュバントをデザインして合成に成功しているのは世界でも我々だけです。製薬企業とも協力して、実用化に向けて尽力していきたいと思います」と瀬谷教授は胸を張る。期待されながらこれまで実現しなかった、世界初の抗がんRNAアジュバントが、瀬谷教授らの研究グループから誕生することを期待したい。

【新規アジュバントARNAXのマウスへの効果】

左:マウスに腫瘍移植後、7日目と14日目に、PBS(対照用のリン酸緩衝液)、OVA(移植したがん細胞に特有の抗原タンパク)、polyI:C、OVA+polyI:C、ARNAX、OVA+ARNAXをそれぞれ投与して、腫瘍体積の変化を調べた。腫瘍体積はどんどん増えていくが、ARNAXと抗原タンパクとの併用では、腫瘍が退縮し、その効果はpolyI:Cと抗原タンパクの併用の場合と同程度であった。右:副作用となる血中のサイトカイン(TNF-α、IL-6)は、polyI:Cでは投与後に大量に産生されたが、ARNAXでは低レベルに留まった。

瀬谷 司 教授

TEXT:秦 千里  PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年10月16日