研究紹介

インタビュー
polyI:Cの作用メカニズム

polyI:Cを認識しているのがTLR3であることがわかってから、polyI:Cはどのように抗がん免疫をもたらすのか、なぜ副作用が生じるのかという、詳細なメカニズムの解明が同教室で進められ、次のことがわかってきた。

polyI:Cを認識したTLR3からのシグナルは、NK細胞と細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する。NK細胞とはナチュラルキラー細胞の略で、活性化すると抗原と関係なく一部のがん・感染細胞を傷害して恒常性を保つ。自然免疫にかかわり、全身をパトロールして、ウイルスや細菌、がん細胞など「異物」となるものを攻撃する。樹状細胞のTLR3が細胞外のpolyI:Cを認識すると、TICAM-1という分子を介する経路によって、NK細胞を活性化する。NK細胞の活性化によって免疫機能が高まり、がん細胞の増殖を抑えることになる。

一方、CTLは、「キラーT細胞」とも呼ばれる。がん細胞の目印となる抗原を投与すると、樹状細胞はその抗原を細胞内に取り込み断片化する。そして、その断片を自らの表面に提示することで、この抗原に対するCTLを活性化する。こうして活性化したCTLは、もとの抗原をもつがん細胞を攻撃するようになる。ここまでは、がんワクチンの話だが、興味深いことに、TLR3がたくさん発現している樹状細胞では、CTLを活性化するための抗原提示能が高かった。polyI:CはTLR3/TICAM-1経路を介して、この抗原提示能の上昇に関わり、がんワクチンの効果を高めると考えられている。

ただし、polyI:C には、TLR3のほかに、RIG-IやMDA5という分子を活性化する経路もある。このRIG-I/MDA5経路では、炎症を誘発するサイトカインやタイプIインターフェロン(IFN)が誘導される。大量にサイトカインやIFNが誘導されると、全身の臓器が急激に変調をきたして、ショック死にいたることもある。つまり、polyI:Cによる副作用は、RIG-I/MDA5経路によって引き起こされる高サイトカイン血症が主な原因であると推測されている。

【PolyI:C の治療投与と樹状細胞応答】

polyI:Cは、樹状細胞のエンドソーム膜に存在するTLR3に認識される。TLR3はTICAM-1にシグナルを伝え、NK細胞を活性化する分子(INAM)の発現を誘導する。また、この二本鎖RNAは、CTLの活性化にも関係する。通常、外来性抗原はエンドソームに取り込まれてMHCクラスUという分子を「土台」として抗原提示され、内在性の抗原はMHCクラスTという分子によって抗原提示される。しかし、TLR3がたくさん発現している樹状細胞では、クロスプレゼンテーションという特別な機構によって外来性抗原がMHCクラスTによって抗原提示され、この抗原に対するCTLが誘導される。polyI:CはTLR3/TICAM-1経路を介して、クロスプレゼンテーションを促し、CTLの活性化に貢献すると考えられる。ただし、polyI:C は、TLR3のほかにRIG-I/MDA5経路も活性化し、炎症を誘発するサイトカインやIFNを誘導してショックを起こす。

この副作用を避ける方法はないのだろうか。「polyI:Cの抗がん免疫の起動は、サイトカイン血症による副作用とは独立して起こっていることがわかりました。つまり、TLR3/TICAM-1経路のみを選択的に活性化するRNAを化学合成すれば、polyI:Cの有効性を維持しながら、副作用の問題を克服した画期的なアジュバントになり得るということです」と瀬谷教授は説明する。

ただ、細胞内のシグナル伝達の経路はそれほど単純ではない。実は、TLR3からTICAM-1に伝わったシグナルは、NK細胞やCTLの誘導のほかに、IFNを誘導する経路にも分岐している。ということは、TLR3/TICAM-1経路のみを選択的に活性化するRNAアジュバントでも、副作用が出てしまうおそれがあるのではないか。

この点について、「RIG-IやMDA5は全身の細胞に発現しているので、この経路が刺激を受けると、サイトカインやIFNが大量に誘導され、重い副作用を起こします。一方、TLR3は上皮系やミエロイド系の細胞にしか発現していないので、刺激を受けてもサイトカインの産生はわずかです。したがって、TLR3/TICAM-1経路のみを活性化するRNAの場合、polyI:Cと比べて副作用は大幅に軽減されると考えられます」と松本准教授は説明する。

そこで、瀬谷教授と松本准教授らは、TLR3の認識パターンに合致し、RIG-I/MDA5を刺激しない二本鎖RNAをデザインした。これなら、副作用の少ないアジュバントとなるはずだ。そして、これを化学合成することに成功した。