研究紹介

インタビュー
体の免疫力を高める“アジュバント”

しかし、ペプチドワクチンを単独で投与しても、十分な効果が得られないことが多い。この改善策として期待されるのが、体の免疫力を高める「アジュバント(免疫賦活剤)」と呼ばれる物質とワクチンを併用する方法である。

免疫療法の歴史から見れば、アジュバントは古くからがん治療に用いられている。細菌感染によってがんが退縮(がんが縮小あるいは消滅)することは、18世紀にすでに経験的に知られており、がん患者に細菌を注射するという試みが行われた。当時は、なぜ細菌感染によってがんが退縮するかはわかっていなかったが、細菌は体の免疫機能を高めるアジュバントとして働いていたのである。

日本でも、結核患者にがんが少ないという疫学データをヒントに、1970年代からウシの結核菌の一部を精製した成分(BCG-CWS)を用いて、がん免疫療法が行われてきた。現在、BCG-CWS療法は特定のがんにおいて高い治療効果が認められている。

細菌だけでなく、ウイルスの感染でも、がんが退縮することが知られている。1960年代に、ウイルスRNAを模倣して合成したpolyI:Cという物質を用いた免疫療法が、がん患者に対して行われ、がんの退縮が確認された。polyI:Cは夢のがん治療薬として期待されたが、臨床試験が進むにつれて、polyI:Cは毒性が強く、死にいたる場合もあることがわかり、実用化にはいたっていない。しかし、がん治療効果への期待は大きく、世界中の研究者がRNAアジュバントの開発に挑戦している。

その一人である瀬谷教授は、こう語る。「ラルフ・スタインマンというノーベル賞学者は、すい臓がんで余命半年以内といわれたとき、自身の体でpolyI:Cを用いた樹状細胞療法を行い、4年以上生きることができました。このように有効性は非常に期待できるのですが、やはり副作用の問題で実用化は難しいのです。そこで、我々は副作用の問題を克服した新規のRNAアジュバントの開発に取り組みました」

【polyI:Cの腫瘍退縮効果と副作用】

左:ある種の腫瘍をマウス体内につくり、polyI:Cを投与すると、腫瘍体積の増加が抑えられる。PBSは対照用のリン酸緩衝液。右:腫瘍が退縮するのは、polyI:Cが樹状細胞のTLR3/TICAM-1経路を刺激することで、細胞性免疫の起動役であるNK細胞やCTL細胞が活性化するためである。ただし、polyI:Cは同時にRIG-I/MDA5経路を活性化させ、サイトカイン血症という重い副作用を引き起こす。詳細は後述。

注釈
【ラルフ・スタインマン】
カナダの免疫学者。「樹状細胞」の命名者の一人。2011年にノーベル賞生理学医学賞を受賞した。