研究紹介

がん幹細胞モデルを駆使し、がんの免疫回避や血管複合体形成の謎に迫る
一貫して、がん幹細胞を研究対象にする佐谷教授。正常組織の細胞に複数の遺伝子を導入することで「人工的にがん幹細胞を作り出すシステム」を確立し、最大限に活用することで、がん幹細胞の動態解明を続けている。脳腫瘍専門医だった経験も生かし、がん幹細胞をターゲットにした新たな治療を模索している。

最初は懐疑的だった、がん幹細胞の存在

がん組織を形成する細胞の一部に、幹細胞のような自己複製能と多分化能をもち合わせた「がん幹細胞」が存在している。正常な組織幹細胞との相違は、未分化な異常細胞を大量に作り出せる点と、少数のがん幹細胞を移植した場合に、原発巣と同じようながん腫を作り出せる点にある。

佐谷教授はがん幹細胞研究を世界的に牽引しているが、研究を始める約12年前までは、その存在に否定的だったという。「当時も組織に正常な幹細胞が存在することは理解していましたが、がんは極めて高い増殖能をもつので、幹細胞のようにほとんど増殖しない細胞があるのか懐疑的だったのです」と佐谷教授。ところが、グリオーマなどの悪性脳腫瘍の臨床と病理像の解析を続けるなかで、薬剤が効かない、効いたかにみえても再発してくる、といった実態を目の当たりにし、考えを変えることになった。

「なぜ効かないのか、なぜ再発してくるのかを検討するうちに、がん組織中に、治療抵抗性を発揮して残存する幹細胞様の細胞が存在すると思うようになったのです」と佐谷教授。その存在を確かめ、どのような性質を示すのかを解明すべく、マウスを用いたがん幹細胞研究を始めることにした。


【がん幹細胞理論に基づくがん治療の変化】

がん幹細胞(赤)は現行の治療に対して抵抗性が高く、治療後に残存し、そこからがんが再発してくると考えられる。今後がんの根治を目指すためには、がん幹細胞を駆逐する治療の開発が必要である。


佐谷秀行 佐谷 秀行(さや ひでゆき)
慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門 教授

1981年 神戸大学医学部卒業
1981年 神戸大学医学部脳神経外科研修医
1983年 神戸大学大学院医学研究科入学
1987年 神戸大学大学院医学研究科修了(医学博士)
1987年 カリフォルニア大学サンフランシスコ校脳腫瘍研究センター研究員
1988年 テキサス大学 M.D.アンダーソン癌センター神経腫瘍部門Assistant Professor
1994年 熊本大学医学部腫瘍医学講座 教授
2007年 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門 教授