研究紹介

インタビュー

「がん幹細胞を作り出し、自在に利用できるシステム」を開発

研究には、遺伝子改変技術が確立し、扱いも容易なマウスを用いた。試行錯誤の末、正常細胞にいくつかの外来遺伝子を導入するという、極めてシンプルな手法でがん幹細胞を作り出すことに成功した。たとえば、マウスの骨髄由来の細胞に数個の遺伝子を導入することで、短期間で確実にリンパ腫や骨肉腫のがん幹細胞を作れるようになった。

「がん幹細胞であることは、得られたがん腫の一部をほかのマウスに移植し、同様の腫瘍が形成されることで確かめました」。そう話す佐谷教授は、白血病以外に、卵巣がん、脳腫瘍などでもがん幹細胞を得ており、細胞をストックするとともに、ヒトのがん幹細胞モデルとして幅広い研究に利用している。


【人工がん幹細胞 (induced cancer stem cell: iCSC)】

Sugihara & Saya, Int J Cancer 132:1249-1259, 2012

マウスの正常細胞に必要最小限の遺伝子操作を加えることで、人工的ながん幹細胞を作製するプロジェクトを実施した。この人工がん幹細胞(induced cancer stem cell, iCSC)は、免疫機能が正常なマウスに少数移植すると、分化度や分化方向の異なる様々な性質のがん細胞を生み出し、ヒトのがん組織に酷似した病理像を呈する腫瘍を形成することができる。このモデルを用いて様々な創薬研究を展開することが可能である。


がん幹細胞の出来方や性質はいろいろ 「研究が進むにつれ、がん幹細胞の多面性も明らかになってきました」と話す佐谷教授。たとえば、がん幹細胞の発生はみな同じではなく、2ルートありそうだという。一つは、正常組織の幹細胞に遺伝子変異が生じることで、がん幹細胞に変化するルート。多くの白血病の幹細胞に当てはまるほか、小児がんにもこのタイプが多いという。もう一つは、炎症を起こした組織に修復機構がはたらき、細胞が増殖する過程で悪性化し、その一部が脱分化して幹細胞に変化するルートだ。遺伝子変異の蓄積が進み、慢性炎症を抱える高齢者には、こちらのタイプが多いという。

さらに、同じがん幹細胞でも、がんの種類や部位によって、変異遺伝子の種類や数、増殖能、分化能、周囲の組織に与える影響などにちがいがみられることもわかってきた。「現在の私たちは、がん幹細胞は結果として出てくるものと考えています。細胞に遺伝子やエピジェネティックなレベルでのさまざまな異常が蓄積し、さらに周囲の組織環境をも利用できた時にできてくるのでしょう」。佐谷教授は、そうコメントする。

佐谷 秀行