研究紹介

消化器がん発症の分子機構を解明して革新的な治療法の開発をめざす 齋藤 義正 消化器がんの発がん過程でのマイクロRNAの発現異常やエピジェネティクス 異常を解析し、慢性炎症に伴うエピジェネティクスとマイクロRNAのクロス トークの破綻による発がんの分子機構の解明を試み、治療法の開発をめざす。

「エピジェネティクス」は遺伝子のどのような変化か

およそ2000年以降、ゲノムの解読という画期的な出来事が核となり、さまざまな研究分野が飛躍的な発展をしているが、なかでも分子生物学の進歩には目覚ましいものがある。そのような変革期にタイミングよく遭遇した研究者をご紹介する。


齋藤義正准教授は医学部卒業後、内科の研修医として臨床の場に身を置いたのだが、消化器がんに使われる抗がん剤がなかなか患者さんの治療効果につながらない、特に進行がんについては治療困難な現実に触れて、活動の場を基礎研究へ転じることにした。まず分子レベルでがんを研究したいと、恩師である齋藤英胤先生(現慶應義塾大学教授)のご紹介により、1998年、築地にある国立がん研究センター研究所に国内留学した。当時は、p53の遺伝子変異などのジェネティクス変化の解析が主に行われていた頃だが、現在、国立がん研究センター研究所の副所長を務められている金井弥栄先生と牛島俊和先生は、いち早く「エピジェネティクス」に注目して精力的に研究されていた。このお二人に教えを受けたことがエピジェネティクスの研究を始めるきっかけになった。


齋藤准教授は「エピジェネティクスとは、ひと言で言いますと、DNAの塩基配列を伴わずに遺伝子発現の変化をもたらすクロマチン構造の変化です」とさらりと言ったのだが、こちらの頭の中に“?”が浮かんだのを察してすぐに、「ちょっと難しいと思うんですけれど」と、笑いながら丁寧に説明し始めた。


クロマチンというのは、ヒストンというタンパク質にDNAが巻き付いた複合体のことである。DNAのCG(シトシン・グアニン)配列のC(シトシン)にメチル基が付着するとDNAのメチル化が起き、ヒストンにアセチル基やメチル基が付着するとヒストンのアセチル化あるいはヒストンのメチル化が起こる。つまり、遺伝子の配列そのものに変化はないけれども、クロマチンの構造が変化することで遺伝子の発現が変わってしまうのだ。これをエピジェネティクスと言う。いわば、遺伝子の発現スイッチをオンにするかオフにするか、という制御の役割をしているのがエピジェネティクスであり、その代表的なものがDNAのメチル化、ヒストンのアセチル化などである。


齋藤 義正(さいとう・よしまさ)

齋藤 義正(さいとう・よしまさ) 齋藤 義正(さいとう・よしまさ)
慶應義塾大学 薬学部
薬物治療学講座 准教授

1996年、慶應義塾大学医学部卒業。同大病院にて2年間内科研修を行う。
1999年より3年間、国立がんセンター研究所病理部リサーチレジデント。
2002年、慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了、博士(医学)取得。
慶應義塾大学医学部消化器内科助手を2年間務めた後、2004年より3年間米国南カリフォルニア大学ノリスがんセンター(Peter A. Jones教授研究室)に研究留学。2007年、慶應義塾大学医学部消化器内科助教。
2010年、北里大学北里研究所病院消化器内科医長。2011年より現職。
メール:
yoshimasa.saito@gmail.com

注釈
【ジェネティック変化】
DNAを構成する塩基の成分にはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類が存在し、これらの配列により遺伝子の設計図が決定される。ジェネティック変化とは、この塩基配列自体が変化してしまうことである。