研究紹介

インタビュー
消化器がんへの研究と治療法の開発へ

齋藤准教授は、マイクロRNAの異常やエピジェネティクスの異常を解析してきて、消化器がんの中でも特に胃がんと肝臓がんにおいて、その傾向が強いことが分かったと言う。考えられる原因の1つは、胃がんではヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)の感染であり、肝臓がんではC型肝炎・B型肝炎ウイルスの感染であり、これらウイルスや細菌の感染による慢性的な炎症が引き金になっている、と認識している。


お話を聞いて、研究開始から短期間で大きな発見をし、精力的に展開しているように思えるのに、齋藤准教授は期待するほど進展していないと言い、現在はがん化になる“犯人捜し”をしているところだそうだ。


「がんという病気は何か1つの遺伝子を治せば治るかというとそうではなくて、多段階発がんと言って、いろいろな遺伝子が悪いほうへステップアップしていって、最後にがん化するという形なので、がんという病気は何か1つの遺伝子の異常ではない。そこがやっかいなんです」


「慢性骨髄性白血病などは原因の遺伝子を標的にした薬(グリベック)があり、投与することで劇的に良くなってくる。一部のがんではそのように原因がはっきりして治療できるけれど、残念ながら胃がんや肝臓がんなど、いわゆる固形がん、消化器がんは犯人が何人もいるという状況で、いくつもの遺伝子あるいはマイクロRNAの異常、エピジェネティクスの異常などがいくつも重なってできているので、なかなか特定できない。特定できてもそれを特異的に治してあげる薬がなかなか開発できない。なかなか道のりは長いなという感じですね」と犯人捜しの苦労を語った。


齋藤准教授は最後に当面の課題として、2つのキーワードを挙げた。1つは「炎症・慢性炎症」で、これが持続することによって起きるがん化を分子メカニズムで解明すること。もう1つのキーワードは「生活習慣病」だ。例えば、運動不足、肥満からくる糖尿病、食生活のアンバランスなど、生活習慣病に見られる様々な要因が後天的な変化、つまりエピジェネティクスの変化をもたらすことが分かってきたそうで、「今までがんという病気と生活習慣病とは、全く別のものだと考えられていたと思うけれど、実は結構オーバーラップしているところがある」そうだ。


「生活習慣病に関する疫学データは豊富にあり、興味深いデータがあるので、今後はそのデータを分析して実験で証明し、新しい抗がん剤とか、あるいは抗がん治療の開発にもっていければいいなと考えています」と今後について語った。


TEXT:阿部芳子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2011年8月31日

齋藤 義正(さいとう・よしまさ)