研究紹介

インタビュー
エピジェネティクスとマイクロRNAの“クロストーク”

齋藤准教授は、「マイクロRNAとエピジェネティクスがどう繋がったのかというお話をしたいと思う」と、2つの研究テーマを結ぶ発端となった発見エピソードを披露した。


齋藤准教授は、2004年にアメリカの南カリフォルニア大学(USC)に留学し、エピジェネティクスの世界的な権威であるPeter Jones教授の下で3年間研究生活を送った。「Jones先生からテーマが与えられたんですが、雲をつかむような壮大なテーマだった」と当時の心境を語った。そのテーマとは、DNAのメチル化酵素(DNAにメチル基をつける酵素)がゲノム上のどの遺伝子をターゲットとしてメチル化するのかを調べるというものだった。


齋藤准教授は次のような作業を行った。生体細胞内でメチル化酵素に結合する抗体があり、その抗体を使って免疫沈降法という手法でメチル化酵素を引っ張り落としてくると、酵素にDNAの小さな断片が付着してくる。その断片の塩基配列を調べると、DNAのメチル化酵素がゲノム上のどこに結合しているかが判明する、というものだった。


「半年くらい、来る日も来る日もメチル化酵素を抗体で落としてきてはそのDNA断片のシーケンスを調べるということをやっていた。ある日、落としてきた断片の配列の中にmicroRNA-127(miR-127)というのが出てきた。要するに、DNAのメチル化酵素がmiR-127に結合しているという証明だった。その時は、私もマイクロRNAというのを知りませんので、放っておいたのです。しばらくしてアメリカでも、マイクロRNAが非常に注目されるようになってきて、そこでアッと思い出した。miR-127がもしかしたらそのDNAメチル化酵素の標的になっているのではないかと。つまり、miR-127がエピジェネティクスによって制御されているのではないかと考えたのです。」


研究を進めて予想どおり、DNAのメチル化やヒストンの修飾によってマイクロRNAの発現がコントロールされているということを世界で初めて発見し、2006年米科学誌Cancer Cellに報告した。さらに、miR-127はがん遺伝子であるBCL6を標的遺伝子としてその発現を抑制していることが判明した。エピジェネティック治療によってmiR-127などのがん抑制マイクロRNAを活性化することが、がん治療の新たな戦略となり得ることが示唆された。単調な作業の積み重ねがすばらしい結果をもたらしたのだった。


エピジェネティック治療によるがん抑制マイクロRNAの活性化

エピジェネティック治療によるがん抑制マイクロRNAの活性化

その後、マイクロRNAがDNAメチル化やヒストン修飾によってその発現がコントロールされているだけでなく、逆にいくつかのマイクロRNAがDNAメチル化酵素やヒストン修飾因子を標的遺伝子として制御していることも明らかになった。エピジェネティクスもマイクロRNAを制御しているし、マイクロRNAもエピジェネティクスを制御しているということ。当初の考えでは、マイクロRNAとエピジェネティクスは別物で接点がなかったけれども、両者は無関係ではなく、非常に繋がりが深かったのだ。齋藤准教授は、お互いが密接に制御しあっているという意味で“クロストーク”と呼んでいる。


「細胞というのは、この2つの重要な生命現象(エピジェネティクスとマイクロRNA)が微妙に関連し合いながら正常に働いているけれども、それがおかしくなってどこかが破綻してしまうと、それによってがん化が起きるのではないかと考えています」とがんとの関連を示唆した。