研究紹介

がん転移を促進するがん間質のしくみを探る 折茂 彰 がん細胞の周囲に存在する間質は、がん細胞の増殖を促進する。間質の線維芽細胞に着目することで、そうした研究における先駆的な役割を果たしてきた折茂准教授は、間質が、がんの転移のメカニズムを解く重要なカギを握っていると考えた。「そのしくみを解き明かし、がんの診療に貢献したい」、折茂准教授は研究への思いを語る。。
がん細胞の周囲では間質が働いている

がんの組織片を採取して顕微鏡で見てみると、がん細胞の周囲は「間質」という組織で取り囲まれているのがわかる。これまでがん研究は、間質に包み込まれたがん細胞を対象とし、間質自体にはあまり注意が払われてこなかったが、近年、間質ががん細胞の増殖を促進していることが明らかになってきた。つまり、間質はがん細胞に働きかけて、がんの進行を促したり、転移にかかわったりしているらしいのだ。そうした研究の先駆者の一人、折茂准教授は、がんの間質ががんの転移に果たす役割を詳しく解明し、がんの治療に役立てたいと考えている。

がんの間質には、何種類かの細胞や、線維、生理活性物質、液体成分などが含まれている。その中で折茂准教授が特に注目してきたのは、線維芽細胞という種類の細胞である。線維芽細胞は、がんの間質にだけではなく、体のいろいろな臓器にも一般的に存在しており、体を支えるコラーゲンなどの線維をつくり出すことでよく知られている。また、体に傷ができたときに活発に働く細胞としても知られている。

折茂准教授はこれまでの研究で、がんの間質では線維芽細胞が活性化されていて、がん細胞の増殖を促進することを証明してきた。悪性度が高くて予後の悪いがんでは、活性化された線維芽細胞がたくさん間質に含まれているのである。「こうしたがんの間質の研究成果は、がんの診断や治療に活かせる可能性を大いに秘めています。特に、患者さんの体内でがんが転移したかどうかを知るための診断マーカーに利用できる可能性が高いのです」と折茂准教授は力説する。

【がんの間質に含まれる細胞】

間質は基底膜とともに細胞外マトリックスを形成している。がんの間質には、線維芽細胞、内皮細胞、白血球、周皮細胞といった細胞と、線維、生理活性物質、液体成分などが含まれている。あとで述べるように、線維芽細胞が活性化されると筋線維芽細胞になり、これががん細胞の増殖を促進する。

折茂 彰
折茂 彰(おりも あきら)
順天堂大学 医学部 病理・腫瘍学 准教授

1989年 順天堂大学医学部卒業、東京大学医学系第三種博士課程就学(臨床内科学)
1990年 自治医科大学大宮医療センターなど
1991年 東京大学医学部附属病院
1992年 埼玉医科大学第二生化学
1994年 東京大学医学系第三種博士課程修了(医学博士)
1995年 埼玉医科大学第二生化学教室助手(村松正實教授)
同年 埼玉医科大学丸木記念特別賞
1997年 ノバルティス老化および老年医学研究基金
2000~2002年 埼玉医科大学第二生化学教室講師(休職)
2000~2007年 米国マサチューセッツ工科大学ホワイトヘッド研究所(ポストドクトラルフェローとして、ロバート・ワインバーグ教授の研究室にて研究)
2007年~2012年6月 英国マンチェスターパターソンがん研究所CR-UK癌間質研究部門グループリーダー
2010年 順天堂大学医学部同窓会学術奨励賞
2012年6月 順天堂大学医学部病理・腫瘍学准教授