研究紹介

インタビュー
転移の研究を治療に活かしたい

折茂准教授は、2012年に日本に戻り、順天堂大学で研究を開始した。現在の研究を進めて、最終的には、転移のマーカーを開発したいと考えている。「現在、がんの微小転移を知る有効な手段はありません。診断でがんの転移が発見されるのは、通常、がんの転移巣がかなり大きくなってからなのです」と折茂准教授は説明する。転移の診断はCTやPETなどの画像が頼りであり、画像で確認できるがんのサイズには限界があるからだ。微小であっても転移を感知できる何らかのマーカーが開発できれば、治療方針を早く決定することができ、大いに役立つと期待される。

がんの進行度は、初期のステージ1から末期のステージ4まで、4段階に分類されているが、例えば、途中段階のステージ2とステージ3の患者さんは、重い副作用がある治療を受けるべきかどうか、判断に迷うことがあるだろう。そうしたときに、がん転移を知るマーカーがあれば、治療方針の決定に利用できるはずである。原発巣に含まれる線維芽細胞の量から、がんの転移しやすさを判断できるかもしれない。がんが高転移性であることを示すマーカー分子を開発できる可能性もある。そして、原発巣のがんが高転移性であると判明すれば、そしてその転移性を抑える薬が開発されれば、転移前の段階で対応が可能になるかもしれない。がんの手術以前に転移が起きているかどうかわかることには、大きなメリットがある。

「がんの研究というとがん細胞ばかりが注目され、間質は軽視されがちでしたが、最近ようやく間質の重要性も認識されてきています。しかし、がんの病理診断では、がん細胞だけを調べて、周囲の間質を調べることはしないのです」と、折茂准教授は語る。また、原発巣や転移巣の抗がん剤治療においても、間質は見直されるべきだという。抗がん剤の耐性獲得に間質がかかわっているという報告もあるからだ。今回の研究を、間質の研究が医療に役立つ大きな一歩を踏み出すきっかけにしたいと、折茂准教授は奮闘している。

【CAFsが示す様々な作用】

CAFsは様々な作用を通じてがん細胞と共謀し、がんを進展させると考えられる。それぞれの分子メカニズムを追及する中から、転移マーカーや原発巣や転移巣に対する治療薬が開発される可能性がある。図中文字の訳は上から時計回りに、増殖、生存、血管新生、免疫抑制、腫瘍炎症、腫瘍誘導、浸潤/転移、間葉系の特徴、細胞外マトリックスの再構成。Reprinted from Polanska UM and Orimo A, J. Cell. Physiol. 228, 1651-7, Copyright (2013), with permission from WILEY

折茂 彰 准教授

TEXT:藤川 良子 PHOTO:大塚 俊
取材日:2013年12月17日