研究紹介

インタビュー
活性化された線維芽細胞が、がん細胞と協力し合う

折茂准教授は、さらに詳しく解析を重ね、活性化された線維芽細胞の性質や機能を明らかにしていった。まず、この細胞が、がん細胞の増殖を促進することを実験により証明した。この実験では、乳がんの患者さんから、正常な乳房部位の線維芽細胞と、がん細胞周囲の線維芽細胞(CAFs)を採取して別々にペトリ皿に入れ、培養した。後者には、活性化された筋線維芽細胞がたくさん含まれていた。次に、それぞれのペトリ皿より線維芽細胞を取り出し、がん細胞と混ぜてマウスの皮下に移植した。がんの増殖のようすを観察すると、結果は明らかで、活性化線維芽細胞が含まれているほうのがん細胞が、活発に増殖した。さらに、顕微鏡写真には、血管がさかんに新生されている様子が写っていた。血管の新生が異常に活発化するのは、がん組織に特有である。

【がん内線維芽細胞は血管新生を誘導しがん細胞の増殖を促進する】

乳がん細胞に、(a)(d)乳がんの患者由来のがん内線維芽細胞(CAFs)、(b)(e)同じ患者由来の正常な部位の線維芽細胞、(c)(f)健康人由来の線維芽細胞を、それぞれ加えてマウスに移植した。上段のマッソントリクローム染色は、線維を水色に、細胞質を赤に染める。下段のCD31は血管内皮細胞のマーカーで、その抗体(Ab)で染色すると血管の位置がわかる。(a)では、赤い細胞質を含む白い空隙が、(d)では、茶色い線で囲まれた白い部分が毛細血管である。CAFsを加えて増殖したがん内に、毛細血管がたくさんつくられている(血管新生がさかんに行われている)ことがわかる。Reprinted from Orimo A., et al., Cell, 121, 335-348, Copyright (2005), with permission from Elsevier

活性化された線維芽細胞ががんの進展を促進する際に、どのような分子メカニズムが働いているのか、折茂准教授の解析は続いた。その結果、細胞はそのとき、微量生理活性タンパク質であるstromal cell-derived factor-1(SDF-1)やTGF-β1を分泌することを突き止めた。SDF-1やTGF-β1は、血管新生や細胞増殖を促進するなど、様々な生理活性を示すタンパク質として知られる。この発見により、線維芽細胞が活性化されたことを示す、より詳しく新しい指標が見つかったわけだ。正常な線維芽細胞が、SDF-1やTGF-β1を分泌するようになれば、がんを促進する能力を獲得したということになる。

この指標を用いて、今度は逆に、がん細胞が線維芽細胞を毒化する作用についても、きちんと定量的に証明することができるようになった。線維芽細胞をがん細胞の中で増殖させ続けると、線維芽細胞が分泌するSDF-1やTGF-β1の量が増加していくことがわかった。分泌量は、培養期間が長ければ長いほど、増える。折茂准教授はこうして、CAFsががん細胞によって毒化され、がんの共謀者となり、自らもがんの進展を促進するというワインバーグ教授の説を実験で証明したのである。

【CAFsが分泌するSDF-1ががん細胞の増殖を促進するしくみ】

CAFsが分泌するSDF-1 (stromal cell-derived factor 1) は、2つのルートでがんを増殖させる。1つは、血管内で循環している血管内皮前駆細胞(EPCs)を腫瘍に引き寄せて血管新生を促すルート(endocrine effect:内分泌効果)であり、もう1つは、がん細胞の表面に発現したCXCR4を通じてがん細胞を刺激するルート(paracrine effect:傍分泌効果)である。Orimo A and Weinberg RA (2006) Cell Cycle, 5, 1597-1601より転載。