研究紹介

インタビュー
活性化された線維芽細胞を定義する

折茂准教授のがん線維芽細胞の研究は、米国のMITホワイトヘッド研究所でのポスドク時代に始まる。内科医として臨床と基礎研究の経験を積んだ後の2000年~2007年、ホワイトヘッド研究所で折茂准教授はがんの研究で有名なロバート・ワインバーグ教授に師事し、研究を行った。ちょうど2000年は、ワインバーグ教授が「The Hallmarks of Cancer」という有名な総説を発表した年である。この総説は、がん化の過程をがん細胞の進化という観点から解説し、それによってがんという病気を定義したもので、その斬新な発想により、世界のがん研究者に大きな影響を与えた。

その総説では、がんは段階的に進展していくものととらえている。そして、「がん細胞は、周囲の正常な細胞を毒化して、共謀者に変化させる。そして、その共謀者とともにがん細胞が働くことで、がんが悪化していく」と説明している。つまり、がん細胞は、周囲の細胞をそそのかして悪者に変え、悪者どうしが協力して、がんという病気を引き起こすというわけである。この説明を間質の線維芽細胞にあてはめると、がんが進行していく過程で、がん細胞は間質の線維芽細胞を毒化し、共謀者に変化させる(活性化)。そして、共謀者になった線維芽細胞は、今度は自身ががん細胞に働きかけ、がん細胞の毒化を促進するということになる。このように、がん細胞と周囲の細胞の相互作用により、がんが悪化していくと考えられる。

【がん細胞と周囲の細胞とが協力してがんを悪化させるという考え方】

がん細胞は間質にある正常な線維芽細胞を教育(毒化)し、活性化された線維芽細胞(筋線維芽細胞)を誘導する。がん化の過程で筋線維芽細胞はより活性化した筋線維芽細胞に進化し、がん細胞を毒化する。これによりがんが進展していく。

この仮説の下、折茂准教授はがん間質の線維芽細胞の詳しい解析を進め、2005年にはその成果を論文として発表した。活性化された線維芽細胞の詳しい性質を解析し、この細胞が、「筋線維芽細胞」という名前で呼ばれている細胞とほぼ同一であることを証明した。筋線維芽細胞に、特異的なマーカー(平滑筋αアクチンマーカー=αSMAマーカー)を加えると陽性を示し、茶色に染色される。そこで、線維芽細胞が活性化されているかどうかを見分けるには、このマーカーで染色してみればよいことになる。折茂准教授は、がんの間質にある線維芽細胞が活性化されて筋線維芽細胞となるという関係をはっきりさせるため、両者をまとめて「がん内線維芽細胞」という名称をつけた。英語では、carcinoma-associated fibroblasts、略してCAFsと呼ばれている。

【がん間質には活性化された線維芽細胞が多数含まれる】

左は、浸潤性乳がんの間質をα-SMAというマーカーで染色したもの。茶色に染色された細胞が、活性化された線維芽細胞である筋線維芽細胞。下は、乳がん組織をヘマトキシリン−エオジン染色したもの。がん細胞(紺青色)と間質の細胞(ピンク色)が見える。

注釈
【The Hallmarks of Cancer】
ワインバーグ教授が、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(当時)のダグラス・ハナハン教授とともにCell誌に発表した総説。