研究紹介

インタビュー

高齢化(加齢)とがんの関係

日本人の平均寿命(2010年には女性86.39歳、男性79.64歳)は世界トップクラスにあり、超長寿国であることは内外が認めるところ。かたや、加齢に伴う疾患の代表格に「がん」がのしあがってきた現状も見逃せない。寿命が伸びることを喜ばしく思う一方でがんになる人が増えているという現実に、SASPも大きく影響を与えているのではないかと大谷研究員は注目している。

【加齢はがんのリスクを上昇させる】
加齢はがんのリスクを上昇させる

「加齢ががんのリスクを上昇させるといわれていますが、実はここにもSASPという現象が関連しているのではないかと考えています。いままでは、高齢化により正常細胞にDNAの傷が蓄積していき、がん遺伝子が活性化したり、がん抑制遺伝子が不活性化してしまうと発がんにつながるのだと考えられてきました。ところが、初期の段階では確かにがん化抑制に重要なはずの不可逆的増殖停止(細胞老化)が、ある程度の長い期間、体内に生存し続けることでSASPを介して発がんを促進しているのかもしれないのです」

がん組織の中にはがん細胞とがん組織の周囲にあって、がん細胞の生存や増殖を支持する「がん微小環境」があり、がん細胞はがん微小環境なしでは生きられないという考え方が、主流になってきている。

大谷研究員によれば、細胞老化を起こした細胞が蓄積されている場所そのものが「がん微小環境」になる可能性があるのだという。「がん微小環境が、がん細胞に有利に働き、がん化を促進する、という研究報告が数多く出されています。しかし、がん微小環境において細胞老化によるSASPが生じていて、それも生体内における病態でそれを証明した研究はまだほとんどないと思います。わたしたちはこの仮説を実証しようとしているのです」

がん微小環境内にあるがん周囲線維芽細胞(CAF)で細胞老化が起きているという論文も出てきていて、いまや細胞老化やSASPと微小環境との関係は、細胞老化の研究者たちの注目を集めているテーマだといえる。

そしてもう一つ大谷研究員が注目しているのが「肥満」の問題。肥満もがんのリスクファクターの一つとされるが、大谷研究員は、肥満という病態においてもやはり細胞老化やSASPが関連しているのではないかと考えている。詳細なデータは現段階では提示できないが、高脂肪食を食べさせたイメージングマウスでは体の各所でp16やp21の発現が強まっている(=細胞老化が進んでいる)そうだ。

注釈
【がん微小環境】
がん細胞の周囲で血管や間質細胞などの組織が集まっている部分のこと。

【CAF(キャフ)】
Cancer-associated fibroblast=がん間質関連線維芽細胞。がん微小環境で最も量が多い細胞。

【肥満による発がんリスク】
現在、大谷研究員はこのテーマについて論文準備中とのこと。