研究紹介

インタビュー

細胞老化をおこした細胞が「がん化」を促進?

「私たちはこのような実験を通じて、がん抑制機構としての細胞老化をずっと研究してきました。実は最近になって、細胞老化はアポトーシスと異なり細胞が死なずにずっと生き残っているわけですから、そのことによる影響はないのだろうか、という点に注目するようになりました」

既に解説したように、アポトーシスは細胞そのものの死だ。死滅した細胞はマクロファージに貪食(ドンショク)され生体内で消滅してしまう。一方、細胞老化を起こした細胞はあくまで分裂増殖を停めただけで、細胞として生体内にある程度の期間とどまるため、どんどん蓄積されていく。細胞老化をおこした細胞は、初期にはがん抑制に貢献していたはずが、生体内に蓄積しつづけることで、やはり影響があることがわかってきたと大谷研究員は続ける。

「死滅せずに生き残った老化細胞が、炎症性サイトカイン(IL-6やIL-1など)や炎症性ケモカイン(IL-8やCXCL9など)、プロテアーゼ(MMPsなど)、PAI-1といったタンパクなどを盛んに分泌していることが明らかになってきました。細胞老化をおこした細胞からこうした炎症性サイトカインなどが分泌される現象はSASP(Senescence-associated secretory phenotype=細胞老化に関連した分泌現象)と呼ばれています。細胞老化の研究で、いま特に注目されているのがSASPといっていいでしょう」

SASP因子には、生体内で炎症を引き起こしたり、がん化の促進につながる働きがあるとされているものが多い。つまり、もともとはがん化抑制機構であった細胞老化が、実は長期に生体内で蓄積されることで、かえってがん化を促進しているというパラドックスに陥っているかもしれないのだ。


【SASPとは?】

細胞老化を起こした線維芽細胞や上皮細胞で多くの種類のサイトカインが高発現する。

注釈
【炎症性サイトカイン】
生体内でさまざまな炎症症状を引き起こす原因因子となるサイトカイン(Cytokine:免疫細胞間で情報伝達を担うタンパク質の総称)のこと。

【ケモカイン】
マクロファージ、内皮細胞、T細胞などから産生され、組織に白血球を遊走させる働きをもつサイトカインの総称。

【PAI-1】
プラスミノーゲン活性化抑制因子=Plasminogen activator inhibitor-1の略。

【老化した細胞は「死なない」のか?】 アポトーシスにより細胞は数時間で死滅するが、老化細胞は生体内でどれだけ「生存」するかは研究者のあいだで意見が分かれている。