研究紹介

インタビュー

細胞周期からみた細胞老化誘導のメカニズム

一つの細胞が完全に二つに分裂するまでの過程を細胞周期(cell cycle)というが、異常な細胞を増殖させないようにするために、細胞周期の各時期で細胞周期チェックポイント(Cell Cycle Checkpoint)という ‘監視機構’ が存在する。

「がん化する可能性のある危険な細胞が増えないように、細胞内のDNAになんらかの傷を受けていないか、DNAの複製が正常に行なわれたか、染色体の分離が正しく行なわれたかなどを、細胞周期の各時期でチェック(監視)して、少しでも異常があれば細胞周期を回さないで、細胞増殖を停めるという、実に精密なメカニズムが細胞には備わっています」
異常の原因を取り除いたりDNAの傷の修復がなされれば、正常な細胞周期に戻って再び周期が回りだすが、修復が困難と判断されると、細胞は不可逆的増殖停止(つまり細胞老化)か、アポトーシス(細胞の自死)を選ぶのである。

【分裂周期(Cell Cycle Checkpoint)】
Cell Cycle Checkpoint

G1期:DNA合成の準備期
S期:DNA合成期(DNAが複製されてDNA量が2倍になる)
G2期:分裂準備期
M期:分裂期(DNAが染色体の形で現われ染色体が2つに分配され、細胞が2つに分裂する)
G0期:静止期(分裂しない時期。休眠状態の幹細胞や脳の神経細胞のように分化した細胞もここにとどまる)


大谷研究員の研究グループは細胞老化が誘導されたとき、どのような分子メカニズムで起きているのかを、まず培養細胞レベルで解明していった(下記 大谷論文参照)。

細胞の増殖を停めるうえでは、p16、p21という2つのタンパクが重要な働きをもっている。p21は、転写因子であるp53が活性化されることで発現が誘導されるタンパク(遺伝子産物)で、主にCDK2と結合してCDK2の機能を抑制する。CDKとは「サイクリン依存性キナーゼ」の略称で、細胞周期を進める「エンジン」役によくたとえられる。
また、発がんストレスが非常に強い場合、p53とは別の経路にあるp16というタンパクも発現が誘導されて、CDK4/6と特異的に結合することによりCDK4/6の機能を抑制する。

こうしてp21とp16は協調し、CDKによってリン酸化されたRB(レチノブラストーマ遺伝子産物)というタンパクを、脱リン酸化状態に保つことにより完全に活性化する。RBは、細胞周期を停めるうえで最も重要な働きをもつタンパクで(S期へ移行するのを抑制する)、これがp21とp16により非常に強く活性化されると細胞周期の進行が不可逆的停止を起こすのだ。

「非常に興味ぶかいことに、細胞老化を誘導する経路で働く因子では、ヒトのがんの約50%でp16が失活していますし、p16が抑えるはずのサイクリンDはがんの20%で活性化し、RBはがんの20%ほどで失活していることがわかっています。一方、もう一つの経路であるp21は、ヒトのがんでは異常はほとんど認められないものの、その誘導因子であるp53は50%の頻度で失活しています。つまり、細胞老化を誘導するこれら経路は、がん抑制に非常に有効であると考えられます」

大谷研究員らの実験でも、p21、p16のそれぞれをノックアウトしたマウス、さらに両方のノックアウトマウスのほうが、正常なマウスより寿命が半分くらいに短くなることがわかっている。

分子細胞生物学分野の代表論文

Ohtani N, Zebedee Z, Huot TJ, Stinson JA, Sugimoto M, Ohashi Y, Sharrocks AD, Peters G and Hara E.
Opposing effects of Ets and Id proteins on p16INK4a expression during cellular senescence.
Nature 409, 1067-70, (2001)

Ohtani N, Brennan P, Gaubatz S, Sanij E, Hertzog P, Wolvetang E, Ghysdeal J, Rowe M and Hara E.
Epstein Barr virus LMP1 blocks p16INK4a/RB-pathway by promoting nuclear export of E2F4/5.
Journal of Cell Biology 162, 173-183, (2003)

Takahashi, A., Ohtani N., Yamakoshi, K., Iida, S., Tahara, H., Nakayama, K., Nakayama, K.I., Ide, T., Saya, H. and Hara, E.
Mitogenic signalling and the p16INK4a/Rb pathway co-operate to enforce irreversible cellular senescence.
Nature Cell Biology 8, 1291-1297, (2006)

Takahashi A, Imai Y, Yamakoshi K, Kuninaka S, Ohtani N, Yoshimoto S, Hori S, Tachibana M, Anderton E, Takeuchi T, Shinkai Y, Peters G, Saya H, Hara E.
DNA Damage Signaling Triggers Degradation of Histone Methyltransferases through APC/CCdh1 in Senescent Cells
Molecular Cell 45, 123-131 (2012).

注釈
【RB】
もともと網膜芽細胞腫(レチノブラストーマ)の原因遺伝子として発見されたが、いまではp53と並ぶ代表的ながん抑制遺伝子であり、多くのがんの発症に関与していることがわかってきている。

【失活】
活性をなくすこと。