研究紹介

一個の細胞のかたちを決める細胞極性タンパク質から組織のかたちの形成維持機構に迫る 横浜市立大学 大学院医学研究科 分子細胞生物学 大野茂男 教授
ゲノムDNAの情報が、いかにして細胞や組織のかたちを規定できるのであろう。個々の細胞の「極性」を制御する遺伝子群が、組織のかたちの形成に重要な役割を果たしていることがわかってきた。大野教授は、これを担う細胞極性遺伝子群の解析を通じて、細胞の集合体である組織の、かたちを制御するメカニズムに迫ろうとしている。

細胞の極性と組織のかたち

生体は、一つの受精卵が分裂と分化を繰り返した結果と言える。細胞の分裂と分化に伴い異なった遺伝子群が次々に働き、その結果ヒトでは200種以上の多様な多数の細胞群が生み出される。「生体は単なる細胞の塊ではありません。生体においては、細胞が集まって特有のかたちをもつ組織が作られ、それが機能する臓器を生み出します。つまり、生体を作る仕組みとして、組織や臓器のかたちを形成する仕組みが必要となります。」そう話す大野教授は、細胞に極性をもたらすシグナル伝達系の解析を進めている。

「そもそも、ゲノムに記述された一次元の塩基配列情報が、生体の三次元的なかたちを決めていること自体、とても不思議だと思いませんか。」確かに、これは発生学のみならず、生物学の大問題である。受精卵は丸い対称形をしているが、生体はゲノムに規定された、特有のかたちを持っているのだ。

組織のかたちの異常は、多くのがんに共通する性質の一つとして、現在のがんの診断の第一の指標である。これに加えて、最近、様々な遺伝子の異常に基づく分子指標(molecular signature)が、がんの新しい診断法としての地位を確立しつつある。これに対して、「がんの分子指標の有効性は明らかですが、これまでの分子指標には組織や細胞のかたちの異常を表す情報が欠落しているような気がします。組織のかたちの異常の程度を表す情報を無視するのは勿体無いと思います。」大野教授はそう話す。


【対称形の受精卵から、多種の多数の細胞から構成される、
かたちと極性向きをもった生体組織が生じる仕組み】

大野茂男 大野 茂男(おおの しげお)

横浜市立大学 大学院医学研究科 分子細胞生物学 教授

1975年 東京大学教養学部・基礎科学科卒業
1980年 東京大学・大学院理学系研究科・博士課程修了 理学博士(東京大学)
1980年(財)癌研究会癌研究所 嘱託研究員
1983年(財)東京都臨床医学総合研究所 研究員
1984年 エール大学生物学部 短期研究員
1991年 横浜市立大学・大学院医学研究科 生化学第二 教授
2003年 横浜市立大学・大学院医学研究科 分子細胞生物学 教授(改組による)(この間2005年-2008年 医学研究科長)