研究紹介

インタビュー
留学先で初めて見た「がんウイルス治療」に将来性を感じる

中村貴史准教授は、大学院生のときから一貫してがんに対する遺伝子治療の研究に取り組んできた。そして、2002年にアメリカ・メイヨクリニックに留学し、5年間ウイルスを利用したがんウイルス療法(腫瘍溶解性ウイルス療法oncolytic virotherapy)の開発研究に従事したのだが、それは麻疹ウイルスを利用した方法で、留学して初めてこの研究に出合った中村准教授は、目から鱗が落ちる思いだったと言う。


通常、がんの遺伝子治療において使われているウイルスベクター(運び屋)は、“ウイルスの増殖能力を排除する”改良を加え、治療遺伝子を発現させるために利用されている。しかし、中村准教授は日本で動物実験を繰り返しているうちに、すべてのがん細胞にベクターを感染させ、治療遺伝子を発現させることは難しいという、研究の限界を感じていたのだ。


そうした思いを抱えての新天地での出合いだった。がんウイルス療法は、それまでの方向とは180度違って“ウイルスをがん細胞に感染させ、がん組織内で増殖させる”ことによって、ウイルス自体が直接がんを死滅させるだけでなく、このがん組織内でのウイルス増殖に伴って、特異的抗腫瘍免疫を誘導する効果も期待できることであった。


そして、この方法では、ウイルスがすべてのがん細胞に感染しなくともよく、例えば、たった1個のがん細胞に感染しただけでもがん組織内でウイルスは増殖し、その周囲の感染していないがん細胞にも感染してがんを破壊していくことが期待できることだ。さらに、通常のベクターとして治療遺伝子を発現させることも可能であり、中村准教授は「無限に増殖するがんに対する治療法として理にかなっている」と思ったのである。


新世代の癌遺伝子治療


注釈
【ベクター】
英語vector。運び屋。遺伝子を細胞の中に入れる運び屋(運搬役)を表し、遺伝子組み換え技術において用いられる。