研究紹介

インタビュー

がん治療だけでなく多能性幹細胞誘導への期待も

「自動合成の問題点もわかってきました。DNAの二重螺旋の溝に入るには、PIポリアミドの形がヘアピン型で安定できていると思いこんでいましたが、この形では多少伸びたり縮んだりして、ヘアピンがもつれるせいで悪さをするようです。そこで、2011年にはサークル型(環状構造)に改良してみました。サークル型も、コンジュゲートしなくても、遺伝子発現の抑制に使用できるようですし、いろいろな薬をコンジュゲートしてゲノムに運ぶことができることもわかってきています」

ヒストンアセチル化を誘導する創薬研究は、がん治療ばかりでなく、あらゆる病気の治療につながる可能性をもっている。まだ動物実験の段階ではあるが、皮膚に塗るだけでケロイドができなくなる薬や、大手製薬会社とともに開発中の角膜外傷後の目の濁りを抑える目薬、腎臓病を抑える薬などの創薬研究にも取り組んでいるそうだ。

マウスの角膜

レーシック手術の失敗で話題になった角膜手術後の細菌感染による失明が抑えられるかをラットの角膜で確かめる

腎不全モデルラット

腎不全を抑える実験結果


永瀬所長とともに特許をとった京都大学杉山弘教授は、皮膚の線維芽細胞に自動合成された化合物を降りかけるだけで山中因子を発現させ、幹細胞をつくりだすことに成功しつつあり、永瀬所長らの研究所グループでも検討している。がんによって失われた体の組織を再建することをめざしての研究だ。

「マウスの皮膚の細胞をつかって山中因子の1つであるOct3/4(オクトスリーフォー)を発現させたところ、ヒストンのアセチル化がしっかり誘導できていることがわかりました。自動合成した化合物がうまく運んでくれていることを示しています」

研究をつづけるうえでの今後の課題を聞いてみたところ、予算が限られていることが最大の課題だという。

「とはいえ、ここ(千葉県がんセンター研究所)は研究環境の整備にかなりがんばっていますよ。いまは立場上、自分の予算よりも人の予算をとってあげることを考えないといけません。厳しいところはありますが、もう少しわたしががんばらないといけないと思っています」

京都大学の研究成果を参考にさせていただきながら、基本的には、自分たちで結果を出す。どこからだれが成果をだすかではない、どこでも、誰でもよいから「出る」ことが大事と。「よほどの天才が現われれば別ですが、これだけいろいろな技術や情報・知識があふれているのですから、研究もネットワークを駆使して、チームでやる態勢がますます重要になっていくと思っています」

永瀬 浩喜

TEXT:冨田ひろみ PHOTO:星野 俊
取材日:2012年7月19日