研究紹介

インタビュー

めざすは「がん」そのものの性質を変えること

標的であるがん抑制遺伝子に狙いをつける技術は、徐々に実用化への道を進んでいるが、その一方で、がん細胞というのは、発生段階から絶対にがん抑制遺伝子を出さないよう、二重三重に砦をつくっているようなものだということがわかってきた。その何重にもたちはだかる砦をいかに突破できるかは今後の課題だという。

「がん抑制遺伝子を再発現させることだけに集中して取り組めば、いつかは最も堅固な砦を攻め落として、がんに勝つことができるかもしれません。けれども、現段階でそれが厳しいのであれば、がん細胞が出て行けないように包囲網をめぐらすという戦法でも効果はあるはずです。がん治療では、どれが本筋かは試行錯誤ののちにわかってくることだと思います。ですから、いまおきている現象が何なのかを明らかにしていき、それに対してどうすれば治療につながるかが一つひとつわかっていけば、結果的にいろいろなことと組み合わせて治療になり、延命になる。それでオッケーだと思っています」

大腸がんの肝臓への転移を抑制するがん転移抑制剤の創薬開発や、がん幹細胞に対する治療応用の研究にも取り組んでいる。
がん治療のアプローチとしては、遺伝子の糸の巻き方を自由に変えることで、がんそのものの性質を変えられる(穏やかにする)可能性があるという。これもエピジェネティクスとしての環境因子が、糸巻きの状態を変えて生体に影響することや、病気の原因になっていることでも確認されている。だから、たとえばがんの転移を促す遺伝子を同定して、逆に糸巻きの中に巻きこんで出てこないようにすれば、それが治療につながる可能性は十分にある。

「環境因子が変われば、がんに特異的なタンパク質が出るようになり、そこからワクチンがつくれるかもしれません。あるいは、いまはがんに対してあまり効かない薬であっても、がんの環境を変えられれば、がん細胞の性質が変わって同じ薬が効くかもしれない。現にSAHAも、そうした使われ方をしている薬です。そのためにはもっとエビデンスを積み上げる必要があります。道は遠いですが、バックグラウンドはすでにあるので、それだけでもかなりのことができると思っています」

【ヒト大腸がんの肝臓転移を抑制】
ヒト大腸がんを発生させたマウスにMMP9阻害薬(HN50)を投与

ヒト大腸がんを発生させたマウスにMMP9阻害薬(HN50)を投与すると肝臓への転移抑制効果がみられた。(MMP9は、がんの転移促進因子)