研究紹介

インタビュー
抗体を使った白血病治療

森下教授らは、抗体を使った新しい白血病治療法も開発している。長年の研究の中で、急性骨髄性白血病(AML)の原因遺伝子として、「EVI1/PRDM3」という転写因子と、その仲間である「MEL1/PRDM16」を見いだし、その働きを調べてきた。「EVI1の発現が高いとAMLが悪性化しやすいことが知られていました。そこで、EVI1やMEL1の欠損マウスをつくって解析したところ、これらの遺伝子は骨髄の中の造血幹細胞の維持に働くことがわかりました。しかし、白血病との関わりは不明なままでした」。

一方、白血病の再発を引き起こす原因となる白血病幹細胞は、骨髄と骨の表面の境界にあるニッチという部分にとどまっており、そのため抗がん剤が効きにくくなることが知られている。EVI1に注目して、この機構を調べると白血病幹細胞がニッチに接着しており、接着が強くなるほど、抗がん剤が効かなくなった。そして、EVI1の発現によって誘導される接着分子インテグリンα6β4複合体(ITGA6/ITGB4)やGPR56によって細胞の接着が促されることがわかった。さらに、ITGA6/ITGB4ならびにGPR56は白血病幹細胞の細胞周期を停止させ、抗がん剤耐性を増強させた。「本来、骨髄ニッチには、造血幹細胞がいるはずなのですが、EVI1をはじめとするさまざまな原因遺伝子が働くと、造血幹細胞はニッチから追い出され、白血病幹細胞は細胞周期を止めてとどまってしまうのです。そんな白血病幹細胞をニッチから追い出すためには、細胞の接着能を低下させればよいはずです」。

そこで、森下教授らは、白血病幹細胞をニッチにくっつける働きをするさまざまな因子に対する抗体や発現抑制低分子物質を開発している。「ITGA6/ITGB4やGPR56に対する抗体は、白血病幹細胞の接着能を確かに低下させることがわかりました。因子によっては、抗体をつくるのが難しい場合もありますが、抗がん剤と組み合わせれば、効果の高い治療ができると思います」と森下教授は、意気込む。

【骨髄ニッチにとどまる白血病幹細胞】

白血病幹細胞は細胞周期を止めて、骨髄ニッチにとどまっているため抗がん剤も効きにくい。白血病幹細胞をニッチにとどめている接着分子に対する抗体を使えば、白血病幹細胞はニッチから離れ、細胞周期も動きだし、抗がん剤が効くと考えられる。

白血病一筋に研究を続けてきた森下教授らの成果により、ATLの発症機構や関連遺伝子の機能が明らかになってきた。このことは新薬や治療法の開発への道筋をつけることになる。「ようやく新しい治療薬の候補がみつかってきました。これらをいちはやく臨床に生かしたいと思っています。ATLは発症までの時間が長いですから、薬を組み合わせることで、ATLの進行を遅くし、平均的な年齢まで患者さんの余命を伸ばすことができたらよいと思います。ATLはそんなに甘くはないと思いますが…」と森下教授は展望を語った。

現状では、検査でウイルスの感染が見つかっても、決定的な治療法がないので、患者さんは不安になるばかりだ。森下教授の成果が、一刻も早く、治療薬の実現につながることを願ってやまない。

森下和広 教授

TEXT:佐藤成美  PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年10月7日