研究紹介

インタビュー
遺伝子異常を解析する

がんはある日突然起こる病気ではなく、遺伝子の異常が積み重なって段階的に進行する。ATLの場合は、T細胞に感染したHTLV-1のRNAが逆転写されてDNA(プロウイルスDNA)ができ、これがT細胞のDNAに入り込む上に、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常などが積み重なり、がんが進行すると考えられている。

【感染から発症までのモデル】

T細胞にHTLV1が感染すると、T細胞のDNAにプロウイルスDNAが組み込まれる。このT細胞が増殖を繰り返す間に、さまざまな遺伝子変異が蓄積されていき、発症する。発症までには長い時間を要する。

一般に、白血病細胞では、染色体の一部がちぎれて他の染色体に結合する転座や、一部が失われる欠失など染色体の異常が観察される。ウイルス感染によらない白血病では、染色体異常で生じた遺伝子の異常が発症原因となっている例がいくつも見つかっており、治療にもつながっている。しかし、ATLの場合は、染色体転座がきわめて多様で、ATLに特異的な遺伝子異常は見いだされていなかった。

そこでまず、森下教授は、多くの患者さんからATL細胞を集め、染色体分析を行った。「ATL細胞を集めるのには苦労しました。方々の病院にお願いしておき、新しい患者さんが来られたと聞くとすぐにかけつけ、試料を提供してもらいました」と森下教授は振り返る。染色体のどこがちぎれるかを調べた結果、切断点が集中している領域が3つ見つかった。そのうち、14番染色体にある領域の遺伝子を網羅的に調べた。

その結果、ATLのほぼ全部の症例でNDRG2遺伝子の発現が低下していることがわかった。NDRG2は、細胞内では、細胞の増殖や分化、ストレス応答などに関わることが知られているが、詳細な分子機構はまだわかっていない。森下教授はNDRG2をがん抑制遺伝子の候補とし、その働きを調べることにした。