研究紹介

消化器がんへ革新的な医療を 森正樹 がんの治療を困難にしている根源は「がん幹細胞」の存在だ
外科手術した後に生まれる疑問の答えを求めて 森正樹教授は、消化器外科医として手術を行う一方、研究において「肝臓のがん幹細胞」の第一発見者となり(2005年)、続けて食道、胃のがん幹細胞も発見。非常にエネルギッシュな方だ。臨床(医療現場)と研究の両分野にまたがり第一線で活躍する医師は少ないのではと思ったら、森教授自身も「アンユージュアル(unusual)だと思う」と笑ってられる。

森教授の行動は、患者さんのがんの状態から生まれる疑問を、実験しながら1つ1つ検証していく作業のようにみえる。なぜ再発するのか、なぜ患者さんによって抗がん剤の効き目が違うのか、なぜ縮小・消失したはずのがん細胞が再び大きくなるのか等々。

例えば大腸がんでは、早期は内視鏡による切除、中期の比較的早いがんはほぼ手術で治せる。それより進んだがんは、手術で治る場合と手術後に再発する場合がある。通常、進行がんや再発がんは、外科手術の枠を超えてしまうと、抗がん剤治療がメインになるそうだ。しかし、森教授は「抗がん剤はがんをなくすという目的で投与し、種類も多く効き目も良くなっている。しかし、そのほとんどは再発までの期間を延ばしたり、再発しても寿命を終えるまでの期間を延ばすことに寄与しているが、本当の意味で治すところまでは行っていない」と言う。
肝臓がんの再発(おへそ辺りのCT画像)

乳がんの症例では、実に14年もたってからの再々発がある。乳房切除から3年後に再発、放射線化学療法とホルモン療法の実施。そして14年後、腰痛から再々発が見つかり、検査の結果、最初の乳がんと同じものと判明した。同じがん細胞がなぜ、これほど長期にわたり潜んでいられるのだろうか。森教授は「17年たってこの程度の大きさのがんというのは、細胞周期を研究している先生方は考えにくいことだと言われる。それで、どうして、こういうことが起こるのだろうか」と考えた。

乳癌再発から14年経って再々発

「私たちは、手術の枠を超えるとどうして抗がん剤が効きにくいのかという追究から、行き着いたところが“がん幹細胞”なんです。今の治療より良くしていくためには、それぞれの臓器でがん幹細胞を見つけて、それを標的にした治療を開発しないと発展性が望めない、というのがこの研究の最初のスタートなんです」
森正樹 森 正樹 (もり まさき)
大阪大学大学院 医学系研究科消化器外科学 教授

1980年九州大学医学部医学科卒業、86年同大医学系大学院修了。80年九州大学医学部第二外科入局、87年同大助手、91年ハーバード大学留学、93年九州大学医学部第二外科助手講師、94年同大生体防御医学研究所細胞機能制御学部門分子腫瘍学分野助教授、98年同教授などを経て、2008年4月より現職。

注釈
【消化器がん】
消化器がんとは「食道がん」「胃がん」「大腸がん」「肝臓がん」「膵臓がん」、胆嚢と十二指腸を結ぶ胆道にできる「胆道がん」を含めて言う。日本人のがんの7割近くは消化器がんである。