研究紹介

インタビュー
がんの治療法の開発に対する新しい取り組み マウスの実験で、5-Fu(フルオロウラシル)という抗がん剤を打つと、しこりは小さくなるけれどもまだある。がん幹細胞だけをやっつける薬剤でさらに小さくなるけれども、まだ子孫が残る。両方一緒に使うとまったくがんができないことが分かった。森教授は「私たちは、現在使われている抗がん剤にプラスしてこの物質を使えば、非常に効果が上がるんじゃないかと思っています。幸いに、その阻害物質というのが人体に使える安全な物質なので、昨年11月に倫理委員会に申請して、審査が通れば、進行した肝臓がんの患者さんの治療に実際に使うことを計画しています」と期待できそうな新展開を披露した。

無治療 CD13阻害剤+抗癌剤

「がん幹細胞というのは確かに魅力的で、考え方も非常にスマートであるけれど、やればやるほどがんというのは複雑多岐にわたっているのを実感します。1つのアプローチでも十分期待している反面、まだまだ疑問が多くて、根治のためにはもっともっとやっていかなくてはいけないと考えています」と話す森教授だが、すでに、がん幹細胞の研究に並行して別の研究テーマも追究し始めている。

その具体的な内容を伺うと、「京都大学の山中伸弥先生が発見されたiPS細胞の報告以来、幹細胞性を誘導するような因子や、幹細胞の制御に関わる因子が明らかにされてくるようになりました。私たちの教室では、iPS細胞誘導因子であるOCT3/4、SOX2、 KLF4およびc-MYCをがん細胞に導入することにより、がん細胞を正常細胞の方向に誘導転換(類正常化)することが可能ではないかと考え、がんのリプログラミングの研究を行っています。興味深いことに、がん細胞にリプログラミング因子を導入すると、がん細胞の抗がん剤感受性が回復すること、さらに、がんの増殖が遅くなることが分かってきました。このような抗腫瘍効果が、がんの長期間の制御につながるのかは更なる検討が必要ですが、がんの制御につながる新しいアプローチになるのではないかと期待しています」と語った。がん研究に対する森教授の熱意は旺盛で、今後どのような方向へ進展するのか、私たちも注目していきたい。
森正樹

TEXT:阿部芳子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2010年12月17日
更新日:2012年8月9日

大阪大学大学院 医学系研究科消化器外科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gesurg/index.html