研究紹介

インタビュー
がん幹細胞はさまざまな能力を持ち、抗がん剤が効かない がん幹細胞が休眠状態に入ってしまうと、抗がん剤をいくら投与しても効かないそうだ。「抗がん剤の効果のほとんどは、細胞が2個に分裂するときに、分かれる性質を利用してそこに働く。分かれようとしないでいる細胞は、基本的にいくら抗がん剤がきてもあまり影響を受けないんです」と森教授は言う。

そもそも眠りやすい性質があって抗がん剤が効きにくいという特徴のほかに、がん幹細胞はさまざまな能力を持っていて、ものすごい手強いというのが分かってきた。その一部を紹介しよう。

1)抗がん剤を排出する能力 がん幹細胞は周りにラッパ状の口をたくさん持ち、異物が中に入るとラッパから外に出す。普通のがん細胞もラッパをある程度持っているが、比較にならないくらい少ない。抗がん剤は浸透圧によって細胞内に侵入するので、普通のがん細胞の中は抗がん剤が多量にたまり核がやられて死滅する。しかし、がん幹細胞は抗がん剤が来てもどんどん排出してしまう。
癌幹細胞と非癌幹細胞のちがい
2)修復する能力 1個ずつのがん細胞に放射線を与えると、核がまずやられる。核にダメージを与えた後にプールみたいな所で泳がせると、核の壊れた細胞は彗星の尾のようなものを引く。がん幹細胞はしっかりしていて尾のようなものが出ていない。これは、がん幹細胞が、ダメージを受けてもそれを修復する能力がすごく高いということを意味している。
ダメージを受けて彗星のように尾を引く細胞
3)活性酸素を過剰に出さない能力 ヒトの体内では、何か刺激を受けると細胞は防御しようとして活性酸素を出す。活性酸素というのは、過剰に出てしまうと防御のために過剰に反応し、かえって自分自身を傷めてしまう。がん幹細胞はその活性酸素を過剰に出さない能力を持っている。
活性酸素(ROS)の推移
薬剤を開発する場合、ある物質を邪魔するときの方法は、その物質の抗体で邪魔するか、その物質の働くところをピンポイントで攻めるか、のどちらかの方法をとるのだそうだ。 「私たちは今回、がん幹細胞の性質をなくす物質を見つけた。肝臓がんでCD13という遺伝子がどうもがん幹細胞のマーカーらしいと分かったので、それをやっつけたらどうなるかと……。そうしたら、ほかのがん細胞より低かった活性酸素量の差がほとんどなくなってしまった。要するに、がん幹細胞としての性質の1つを完全になくしたんです」