研究紹介

インタビュー
あのブラックジャックも治せなかった病気の治療薬を目指して

宮園教授らはTGF-βだけでなくBMP(Bone Morphogenetic Protein)という分子の研究も行っている。BMPはTGF-βに非常によく似ており、細胞にとって外部からの刺激の1つとなる。BMPも多様な作用をもち、それらのうち最も代表的なものが骨形成作用である。実際、欧米では、骨の治りをよくするとしてBMPが骨折や歯の治療に使われている。そしてTGF-βのシグナル伝達の異常ががんにつながるように、BMPのシグナル伝達の異常もがんとは別の様々な病気を引き起こす。

現在、宮園教授らは、BMP研究の一環として、厚生労働省が指定する難病の1つ「進行性化骨性筋炎(進行性骨化性線維異形成症、FOP)」の創薬開発を進めている。この病気は、何種類かあるBMP受容体のうちの1つに変異があるために起こる。変異したBMP受容体から過剰にシグナルが伝わり、筋肉が骨に変わっていく恐ろしい病気である。手術ができないため、手塚治虫の漫画「ブラックジャック」でも、天才外科医が治せなかった病気として描かれている。

【BMPは骨形成を促進する】

筋芽細胞にBMPの刺激が加わると、骨芽様細胞に分化する(下段)。血清飢餓時には、筋芽細胞は骨へ分化せず、筋管を形成する(上段)。またBMPには筋管形成を抑制する働きがある。

BMP阻害剤を用いれば、シグナル伝達を抑えられると考えられるが、従来のBMP阻害剤ではFOPの原因となるBMP 受容体だけを阻害することはできず、まだ治療法は確立されていない。しかも、FOPは患者さんが日本に70人ほどしかいない希少疾患であるため、民間の製薬会社は開発に動きにくい。そこで宮園教授らはこの状況を打破しようと、理化学研究所の創薬・医療技術基盤プログラムにおいて、FOPの創薬開発に努力している。このプログラムではスクリーニングを進め、現在までに、この病気の原因となるBMP 受容体を阻害する新規化合物の同定に成功した。

さらに「乳がんの骨転移研究において、骨からBMPが漏れ出て、がん細胞を刺激していることが示唆されています。もしかすると、BMPシグナルを阻害する難病の薬が、乳がんの骨転移を抑制するのに使えるかもしれません」と、宮園教授はがん治療への展開も示唆する。