研究紹介

インタビュー
TGF-βは、がん微小環境の一部としてがんの悪性化を促す

がん細胞はがん細胞だけで増殖しているわけではなく、周りの環境と相互作用して、増殖に有利な環境をつくりあげている。これを「がん微小環境」という。がんの転移も、原発巣を離れたがん細胞が、自らの増殖に適した微小環境を見いだし、そこにすみつくことで起こると考えられている。

その典型例として、乳がんの骨転移がある。乳がん細胞をマウスの心臓から注射して、乳がん細胞を追跡すると、4週間後には乳がん細胞が骨に転移する。宮園教授は、「この骨転移にもTGF-βが関与しているのです」といい、「乳がん細胞を注射されたマウスは、その後10週間程度で死に至りますが、驚くことにTGF-βシグナル阻害剤を投与されたマウスは骨転移が半分程に抑えられて寿命が伸びるのです」と続ける。

【がん微小環境】

がん組織には、がん細胞だけでなく間質と呼ばれる部分がある。間質には線維芽細胞、炎症や免疫を司る細胞、血管、リンパ管、コラーゲンなどが存在し、がん微小環境と呼ばれる特徴的な構造を形成している。

乳がん細胞にとって、骨はがん微小環境を構築するのに適している。乳がん細胞が産生する分子の中には、骨芽細胞を介して破骨細胞を活性化するものがある。また、活性化された破骨細胞の働きにより、今度は骨からTGF-βなどの生理活性物質が放出されて、乳がん細胞が活性化される。このように乳がん細胞と骨は、互いにシグナルを交わし悪性サイクルをつくりあげている。この例から、がんの転移には、がん細胞だけでなく、周りの環境が非常に重要な役割を果たしていることがわかる。

【乳がんの骨転移における悪性サイクル】

乳がん細胞は骨芽細胞を活性化するPTHrPなどのタンパク質を産生している。活性化された骨芽細胞は破骨細胞を活性化させ、骨を溶かしてしまう。その際に骨から生理活性物質が放出され、今度はそれらが乳がん細胞を活性化する。このようにして、がんと骨の中のがん微小環境の間に悪性サイクルができあがる

宮園教授の研究はTGF-βのシグナル伝達の研究から始まり、気づけば、がんにおけるTGF-βの役割解明という非常に大きな研究へと変化してきた。さらに、現在はがん微小環境という新学術領域を立ち上げ、多くの研究者とともにより広い視点から研究を行っている。

「これまでの抗がん剤は、がん細胞だけではなく、増殖している細胞すべてを標的としているものが大半で、副作用が出やすいという問題がありました。しかし、がん細胞は周りの環境を利用して増殖していますから、がん微小環境を研究することで、より副作用の少ない新しいタイプの治療法をつくれるのではと考えています」と、宮園教授はがん微小環境の研究の重要性を述べる。さらに、「特に乳がんの骨転移は、患者さんの骨を削ってもろくさせ、患者さんに激しい痛みを与えています。乳がんと骨の悪性サイクルを止めることができれば、がんの転移を抑え、なおかつ患者さんの痛みを軽減させることができるかもしれないのです」と期待を語る。