研究紹介

インタビュー
がんシステムをデジタル化すると、がんの診断と治療へ応用できる 宮野教授のグループは、将来的には、デジタル化したがんシステム(シミュレーションできるもの)のデータベース化を視野に入れている。

データベース化とは――多数のがん患者さんのゲノムのどこに異常があり、どんな変化がゲノム上に起こっていて、その結果、どのような遺伝子がどれだけ発現しているかといったデータを統合解析して、がんシステムをデジタル化することだ。

これは、メラノーマのメタノールで行ったような基本モデルの拡大版を想像していただくと分かりやすい。新しいがん患者さんのデータを調べるときに、モデルパターンから近似しているパターンを選び出し比較すれば、どのような違いがあるかを容易に浮かび上がらせることができる。次に違いを細かく調べていく。シミュレーションを駆使することによって、新しい患者さんのがんの特徴を早くつかむことが可能になるシステムである。

どんな違いがあるのか、どの抗がん剤が効くのか、どの治療法がいいのかという、今までになかった視点でがんの診断と治療に生かすことができる。また、個人個人のがんリスクがどのようなものかを知ることもできるだろう。医療現場に届けるには、まだまだ時間がかかると思われるが、まずは「がんシステムのデジタル化」を最優先に研究を続けていく。

がんは、個人個人で違っている。DNAの配列が少しずつ違うバリエーションが無数に存在しているので、全く同一の人はいない。そのことがいっそう「がんの診断と治療」を難しくしている。「患者さんは、私のがんはどうなっているの、ということを一番知りたいんです」。宮野教授は、患者さんの関心はこの一点に尽きるという。

こういう研究はスパコンを使わないとできないし、スパコンがあってはじめてできる研究といえるかもしれない。宮野教授は、がんシステムのデータベース化は国民全体の人たちが享受できるように作らないと意味がないと、そこまで見通したうえで研究を進めている。

研究チームの雰囲気をうかがうと、宮野教授は笑いながら語った。「やりがいがあるテーマですねえ。だから、メンバー、各研究室のスタッフの志気はきわめて高いです。ちょっと高すぎるくらいなんです」
宮野悟

TEXT:阿部芳子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2010年9月25日
更新日:2012年8月13日

東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター DNA情報解析分野
http://dnagarden.hgc.jp/ja/doku.php

注釈
【システムがん研究】
がんは遺伝子異常によるシステムの病気。
そのシステムを数理モデリング・シミュレーションと実験データを融合して解析する新世代のがん研究である。