研究紹介

インタビュー
7人の科学者が集結し、がん研究に新たなパラダイムを創成する 一人のヒトゲノムのDNA配列は30億文字。2010年には中・英・米の「1000人ゲノム計画」により人類のゲノム地図が完成した。2013年には、10万円で自分のゲノムシークエンスをできるようになる。さらにその費用は100ドル以下にまで下がっていくだろう。自分のがんの特徴もスーパーのマグロの産地もゲノムで特定できる。このゲノムに生じた複数の遺伝子異常が複雑に組み合わさって暴れ出したシステムが、「がん」だ。この膨大なデータから複雑ながんシステムを読み解くためには、「スーパーコンピュータ―(略称スパコン)」と巧妙な数理的方法が不可欠である。

この度のプロジェクトは、研究者7名(がん研究のトップランナー5名、計算システム生物学・遺伝統計学のパイオニア2名)で、がん研究に新たな研究パラダイムを創成することを目的としている。 「システムがん」とは何か――作業としては、がん研究の匠たちが探り出すがんシステムのデータを、「数学とスパコンを駆使した大規模データ解析と数理モデリング」で融合し「がんの多様性とダイナミズムをデジタル化」する。この戦略で、「がん病態の解明とその臨床応用」を目指す。

例えば、がん細胞にある抗がん剤を投与して、1時間ごとにデータを取り、そのデータをスパコンに入れてシミュレーションする。すると、約2万ある遺伝子から選択した遺伝子群が、抗がん剤によってどのように反応していくか、またどの遺伝子と結びついて別の遺伝子にどう影響を与えているか、という遺伝子の因果関係をあぶり出すことができる。

宮野教授はプロジェクト代表も兼ねており、「領域の研究方針の策定」も行う。「がんバイオロジーの観点と、システム解析をやる観点、その両方から煮詰めていって、こういう実験をやりましょうと決める。それぞれの先生がそれぞれの興味で出してきたデータから、このようなシステム化が見えてくるわけではない。これからは、ゲノムの異常と関連づけながら見ていかないと、がん治療法なんてできない」という。 その言葉の裏には、「これまで、がん研究の方々と幾つも共同研究をやってきましたけれど、ほとんどのトップランナーの方々は、こういう研究のやり方が不可欠になるという認識をお持ちでした。ただ、どうやったらいいか分からないでいる」という思いがあった。
宮野悟

注釈
【研究メンバーとその研究課題】

・稲澤譲治(東京医科歯科大学教授)
がんの統合的ゲノム・エピゲノム解析と治療標的分子シーズの探索

・石川俊平(東京大学准教授)
治療によって修飾されるがんのゲノミクス解析とバイオマーカー探索

・宮野悟(東京大学教授)
計算とシミュレーションによるがんシステム学の創成

・高橋隆(名古屋大学教授)
ノンコーディングRNAによる発現統御ネットワークの解明に基づくがんの個性の描出

・小川誠司(東京大学特任准教授)
SNPアレイ解析に基づくがんの個性の理解と分子標的の探索

・曽我朋義(慶應義塾大学教授)
メタボローム解析に基づくがんの代謝の理解、診断法の開発

・角田達彦(独立行政法人理化学研究所チームリーダー)
がんのバイオインフォマティクスと遺伝統計学的解析