研究紹介

白血病幹細胞や骨髄ニッチをターゲットにした治療法を開発し、白血病の再発を防ぐ 京都大学 大学院医学研究科 輸血細胞治療部 前川 平 教授 「血液のがん」である白血病は、かつては不治の病といわれたが、抗がん剤や移植療法、また近年の分子標的薬の登場によって、生存率が飛躍的に向上した。しかし、いまだ再発する症例も少なくない。そのおもな原因とされているのが、白血病幹細胞や、薬剤抵抗性をもった白血病細胞の存在だ。前川教授は若手研究者らとともに、これらの問題を克服する治療法の開発に向けて邁進している。
慢性骨髄性白血病の分子標的薬が次々と登場

血液中には、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞がある。これらの血液細胞は、骨の中にある骨髄という場所で、血液細胞のもととなる造血幹細胞が分化・増殖してつくられる。白血病は、造血幹細胞から血液細胞がつくられる過程で、白血球ががん化し、無制限に増殖することで発症する。

白血病は、がん細胞のタイプから「骨髄性」と「リンパ性」に分けられ、さらに病気の進行パターンや症状から「急性」と「慢性」に分けられる。前川教授は長年、慢性骨髄性白血病(CML)の治療法の開発に取り組んできた。

CMLのほとんどの症例は、bcr-ablという遺伝子が原因であることが以前から知られている。正常なヒトの細胞では、bcrという遺伝子は22番染色体、ablという遺伝子は9番染色体に存在するが、CML患者の白血病細胞では、両方の染色体が途中で切れ、つなぎ替えが起こっている。それにより、bcrという遺伝子とablという遺伝子が一つながりになってしまい、この遺伝子からBCR-ABLという異常な融合タンパク質ができる。BCR-ABLはチロシンキナーゼという酵素が異常に活性化されたもので、この酵素が細胞増殖のシグナルを細胞内に伝えることによって白血病細胞は増殖し続ける。

このような発症のしくみから、BCR-ABLというタンパク質分子の働きを阻害すれば、CMLを治療できると考えられた。そこで登場したのが、イマチニブ(商品名:グリベック)という分子標的薬である。イマチニブは、白血病細胞に発現しているBCR-ABLに特異的に結合してその働きを阻害するため、広く細胞の増殖を抑える抗がん剤のような副作用もない。イマチニブの登場によって、CML患者の生存率は劇的に向上した。

「しかし、中にはイマチニブが効かない症例もあります。BCR-ABL分子のうち、イマチニブが結合する部位に変異が起きて形が変わってしまい、イマチニブに対する耐性を示す場合があるのです。そこで、イマチニブに続き、他のチロシンキナーゼの働きを抑える第2、第3世代のチロシンキナーゼ阻害剤が開発されています。私たちも、イマチニブ耐性CMLにも効くような新しいチロシンキナーゼ阻害剤を日本企業と共同で開発し、米国で臨床試験を実施してきました」と前川教授はいう。

前川 平
前川 平(まえかわ たいら)
京都大学 大学院医学研究科 輸血細胞治療部 教授

1978年 京都府立医科大学卒業
1978年 同大学附属病院研修医
1981年 同大学附属病院修練医(第三内科)
1986年 同大学大学院博士課程修了
1986年 京都第一赤十字病院血液内科医師
1988年 The Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research (Melbourne, Australia)博士研究員
1990年 京都府立医科大学助手(衛生学教室)
1996年 東京大学講師(医科学研究所附属病院輸血部)
2002年 京都大学教授(医学部附属病院輸血部)
2002年 京都大学医学部附属病院 輸血細胞治療部長、同病院 分子細胞治療センター長(併任)