研究紹介

インタビュー
骨髄ニッチを標的にした急性白血病の治療法開発

進行が速い急性白血病は、体内に存在する白血病細胞をすべて根絶すること(Total cell killという)が治療目標である。急性白血病と診断された時点で、すでに数兆個の白血病細胞が体内にあるといわれる。一般的な治療法としては、まず、高用量の抗がん剤を用いたり多剤併用したりすることで、一気に白血病細胞の数を減らす。そして、正常な白血球が自然に増えるのを待ち、残っている白血病細胞をさらに死滅させることで根治を目指す。

しかし、このような治療法では、白血病幹細胞や薬剤抵抗性をもった白血病細胞が残存している場合があり、再発を起こす原因となる。そこで、前川研究室の三浦康生助教は、骨髄ニッチを構成する「間葉系間質細胞」を標的とした治療法開発に取り組んでいる。

三浦康生助教

先述の通り、骨髄ニッチは、造血幹細胞や白血病幹細胞の居場所である。骨髄ニッチは、さまざまな細胞で構成されており、詳細は不明な点が多いが、間葉系間質細胞は、骨髄ニッチを構成する重要な細胞であることがわかっている。間葉系間質細胞は、骨、軟骨、脂肪細胞などに分化する性質をもち、組織修復、免疫調節、造血支持などの多彩な役割を果たしている。「白血病細胞や白血病幹細胞は、間葉系間質細胞にくっついて守られているため、抗がん剤で治療しても残ってしまいます。白血病細胞や白血病幹細胞を間葉系間質細胞から引き離せば、守ってくれるものがないので、抗がん剤でたたくことができるのではと考えられます」と三浦助教は話す。

そのためには、間葉系間質細胞と白血病細胞や白血病幹細胞の間をつなぐ接着因子をターゲットとした薬が必要だ。しかし、新薬開発には、時間やコスト、人手がかかる上、認可される薬はほんの一握りである。そこで、三浦助教は、既存薬の中から候補化合物を探す「ドラッグ・リポジショニング」という手法を取り入れている。これは、既存薬の中から、目的の作用をもつものを探すというやり方だ。ある病気の薬が別の病気に効くことがわかり、適用が広がった例はこれまでにいくつも知られている。三浦助教はすでに、求める作用をもつ薬の目星をつけているという。

「既存薬であれば、安全性が高く、薬物動態もすでにわかっているので、一気に臨床試験にもっていくことができます。一刻も早く患者さんに有効な薬を適用できればと思っています」と意欲を示す。

【間葉系間質細胞を標的とした白血病治療戦略】

(A)従来の治療では、抗がん剤による治療後に、多くの症例で寛解(白血病細胞が減少し症状がなくなった状態)になるが、抗がん剤抵抗性をもつ白血病細胞や白血病幹細胞が骨髄ニッチに残存していると、再発の原因になる。(B)骨髄ニッチを構成する間葉系間質細胞(MSC)は、接着因子を介して白血病細胞や白血病幹細胞をつなぎとめ、守っている。この接着因子をターゲットにし、白血病細胞や白血病幹細胞を間葉系間質細胞から引き離せば、抗がん剤でたたいて駆逐できると考えられる。

前川研究室では“From bench to bedside” (研究室から臨床へ)の精神で、研究を進めている。前川教授の経験に、勢いのある若手研究者らのがんばりが加わり、次々に成果が上がっている。ユニークなアイデアに基づく研究が白血病の治療につながる日を期待したい。

前川研究室

前川 教授

TEXT:秦 千里  PHOTO:大塚 俊
取材日:2014年11月7日

注釈
【間葉系間質細胞】
Mesenchymal Stromal/Stem Cellの和訳で、間葉系幹細胞や多能性間葉系ストローマ細胞などとも呼ばれる。骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞などへの多分化能をもつほか、免疫調節や組織修復、造血システムの維持にもかかわっている。