研究紹介

インタビュー
再発の原因となる白血病幹細胞

「イマチニブや、第2、第3世代のチロシンキナーゼ阻害剤の登場で、CMLの患者さんの予後は劇的によくなりました。しかし、これらのチロシンキナーゼ阻害剤をもってしても再発する症例が少なからずあります。その原因として考えられているのが、CML細胞の親玉となる“CML幹細胞”の存在です。そこで我々は今、CML幹細胞をターゲットにした治療法の開発に向けて研究を進めています」と前川教授は話す。

CML幹細胞は、骨髄中にある特殊な微小環境(骨髄ニッチや血管性ニッチ)に潜んでおり、細胞周期の静止期にあって分裂せず(詳しくは後述)、抗がん剤や分子標的薬による攻撃を免れる。そのため、治療後もCML幹細胞は生き残り、再びCML細胞を生み出して再発を引き起こすのだ。

CML幹細胞が潜んでいる骨髄ニッチや血管性ニッチという環境は、酸素濃度が低いのが特徴である。骨髄中の酸素濃度は平均5%程度だが、骨髄ニッチが存在する骨内膜という場所の酸素濃度は1%ほどしかない。血管性ニッチも実際には低酸素環境にあることが証明されているという。CML幹細胞はこのような低酸素環境に適合した特殊な代謝経路をもっている。前川教授はここに注目した。「CML幹細胞は低酸素状態で生き延びるために、普通の細胞とは異なる代謝経路を使っています。その代謝経路を標的とすることで、CML幹細胞をやっつけることができるのではないかと考えました」。

【骨の構造と酸素濃度】

骨の内側には骨髄があり、それを取り巻く膜を骨内膜と呼ぶ。骨髄は、造血幹細胞から血液細胞(赤血球、白血球、血小板など)がつくられる場所である。骨髄中の酸素濃度は平均で5%程度である。造血幹細胞や白血病幹細胞は、骨内膜にある骨髄ニッチに存在すると考えられている。骨内膜近傍は、生体内でも特に酸素濃度が低く、約1〜1.5%と報告されている。また、骨髄内には、骨内膜とは別に、血管内皮細胞や細網(さいもう)細胞などから構成される血管性ニッチがあるとされている。

注釈
【骨髄微小環境(骨髄ニッチ・血管性ニッチ)】
造血幹細胞や白血病幹細胞の分化や維持を調節する特殊な微小空間のこと。骨髄ニッチや血管性ニッチの場所や実体については最近解明が進んでいる。