研究紹介

インタビュー
ヒストン修飾とがん

先述のとおり、DNAメチル化は遺伝子の発現を抑制する。しかし、よく調べていくと、DNAがメチル化されていないのに、遺伝子発現が抑制されている遺伝子が、がん細胞で多く存在することがわかってきた。そこで注目されるようになったのが、エピジェネティクスの別の機構である「ヒストン修飾」である。ヒストンは、アセチル化、リン酸化、メチル化、ユビキチン化といった化学修飾を受ける。このような修飾が、がん関連遺伝子の発現に関連していることが、2000年代になって明らかになってきた。

近藤教授は、ヒストン修飾のうちでも、ヒストンH3K27のメチル化が、がん細胞においてがん関連遺伝子の抑制に深くかかわっていることを見つけた。H3K27のメチル基を取り去ると、抑制されていた遺伝子発現が回復することも確認した。「すなわち、がん細胞には、DNAメチル化で抑制されている遺伝子の他に、H3K27メチル化で積極的に抑制されている遺伝子が存在するということです」と近藤教授は解説する。

では、H3K27のメチル化はどのように制御されているのであろうか。H3K27のメチル基は、EZH2というメチル化酵素によって付加され、UTXなどの脱メチル化酵素によって外される。「これらの酵素の活性は、細胞外からくるシグナルによって変化します。つまり、メチル基をつけたり外したりがダイナミックに行われているのです」と、近藤教授はヒストンメチル化の特徴を説明する。これは、DNAメチル化があまり変化しないのと対照的だ。

また、H3K27メチル化は、遺伝子の発現をオフにする修飾だが、逆に、H3K4のメチル化は、遺伝子の発現をオンにする修飾である。ES細胞(胚性幹細胞)では、多くの分化関連遺伝子に対し、H3K27メチル化とH3K4メチル化の両方が同程度に働くことで、未分化の状態が維持されている。ここに分化誘導シグナルがやってくると、どちらかが優位になって、その遺伝子がオンになるかオフになるかが決まる。それによって細胞の運命も決まり、細胞の分化が進んでいくのである。このように、H3K27メチル化は発生過程においても重要な働きをしている。実際、このH3K27のメチル化酵素であるEZH2をノックアウトしたマウスは、発生過程の分化の異常によって生まれてくることができないという。

【ヒストンH3K27メチル化は発生・分化に関与する】

ヒストンH3K27のメチル基はEZH2というメチル化酵素によって付加され、UTXなどの脱メチル化酵素によって外される。H3K27メチル化は遺伝子発現を抑えるのに対し、H3K4メチル化は遺伝子発現を活性化する。ES細胞では、H3K27メチル化とH3K4メチル化が共存して働くことで、未分化の状態が維持されているが、どちらかが優位になると、それぞれの遺伝子のオン/オフが決まり、細胞の運命が決まる。

注釈
【ヒストンH3K27】
ヒストンにはH2A、H2B、H3、H4の4種類があり、それぞれ2分子ずつ集まり八量体を形成している。DNAはこの八量体に巻き付いている。H3K27は、H3の27番目のリシン(K)残基を示す。同様に、H3K4はヒストンH3の4番目のリシン残基を示す。