研究紹介

インタビュー

クッシング病の病態解明と治療に向けて

先の実験結果を受け、駒田教授は「14-3-3タンパク質と結合できない変異USP8が特定部位で切断されてしまうと、脱ユビキチン化が過剰におきるようになるのではないか」と思い至った。さっそく、質量分析で切断部位を調べてみたところ、患者由来のUSP8は、変異部位に関係なく14-3-3結合配列の直近のN末端側で切断されていることがわかったという。駒田教授は、切断を受けたC末端側のドメインが「過剰な酵素活性」を獲得するのではないかと推測し、さらなる検証を続けた。

「ヒトの培養細胞(ヒーラ細胞)を使って、正常なUSP8、14-3-3結合モチーフに変異をもつUSP8、切断で生じるC末端側のドメインだけからなるUSP8、といったように様々なUSP8を発現させた複数種の細胞を用意し、EGFで1時間刺激したときの活性化EGF受容体の局在を詳細に調べてみました。すると、正常USP8を発現させた細胞のみで受容体が細胞内に取り込まれエンドソームからリソソームへと移行し、ほかの2つは受容体が細胞表面に残ったままでリソソームに輸送されませんでした」。そう話す駒田教授は、クッシング病に以下のような発症メカニズムがあると結論づけた。

  1. USP8にある14-3-3結合配列に変異が入ることで、USP8が特定部位で切断されるようになり、その活性が過剰になる。
  2. USP8の活性過剰によりEGF受容体の脱ユビキチン化が過度におきるようになり、そのダウンレギュレーションが阻害される。
  3. 活性化されたEGF受容体が分解されずに細胞膜上に留まり、増殖シグナルが出続ける。
  4. 脳下垂体のACTH産生細胞が過剰に増殖し、良性腫瘍が形成される。

【USP8変異によるクッシング病発症の分子機構】

クッシング病の発症メカニズムが突き止められたのは大きいが、病態にはまだ多くの謎が残されている。「決定的な治療薬がない1つの理由は、病態の動物モデルがないからです。すでに私たちは病態モデルを目指したトランスジェニックマウスの作出にもとりかかっており、ドイツや日本の臨床チームと協働して、創薬や治療にむすびつく基盤研究を続けていきたい」。駒田教授は、そう意気込んでいる。



駒田 雅之

TEXT:西村尚子 PHOTO:岩上紗亜耶
取材日:2015年9月14日