研究紹介

「上皮から成る管」の形成基盤を明らかにし、がんの浸潤や転移のしくみにもせまる 大阪大学大学院 医学研究科 分子病態生化学 教授 菊池 章
ヒトで200種以上、60兆個に上るとされる細胞。一人一人の体は、受精卵というただ一つの細胞が「決められたルール」に従って増え、必要に応じて形を変えることで作り上げられる。菊池 章教授は、生物のかたちづくりには細胞の増殖・極性・運動の協調的働きが重要だと考え、液性因子や接着による制御メカニズムの解明を進めている。一方で、こうした増殖・極性・運動の制御システムの破綻と、浸潤・転移していく「がんの悪性化」との関連についての解析も行っている。

管を形成するしくみをモデルに、かたちづくりにせまる

分化や成長の途上にある細胞は、膜を介して互いに情報をやりとりし、増殖・かたちの変容・移動といった変化をおこすが、組織や臓器がいったん成熟すると、不必要に増殖したり、分化したりすることはなくなる。膨大な数の細胞はいかにして協調し、特定の構造を作り出しているのか?

菊池教授がかたち作りのモデルとしているのは、肺、乳腺、肝臓、腎臓、消化管などの上皮で被われた上皮管腔組織である。いずれの管も表面に上皮細胞が連なり、「外側(基底)を向く面」と「内側(内腔)を向く面」とがきちっと決まっている。内側は体の表面を被う皮膚とつながってあり「一筆書き」で書くことができる。


【生体を構成する上皮管腔組織】

生体を構成する上皮管腔組織

「発生生物学においては、さまざまな組織や臓器のかたち作りがノックアウトマウスなどを用いて研究されていますが、分子や細胞どうしがどのように関係しあって形を作り上げるかというところまでは到達していません。また、肺や乳腺、肝臓といったように組織や臓器の研究が細分化され、個別に検討されている状況にあり、管腔組織形成における共通のメカニズムが存在するのかは不明です。生化学を専門とする私たちは、分子や細胞の集まりからかたちづくりに迫り、しかも、あらゆる管に共通した形成基盤のメカニズムを明らかにしたいと考えています」。菊池教授は自らの研究について、そう話す。


【単一細胞の研究から細胞の組織化の研究へ】
単一細胞の研究から細胞の組織化の研究へ

菊池 章 菊池 章(きくち あきら)
大阪大学大学院 医学研究科
分子病態生化学 教授

1982年3月 神戸大学医学部卒業
1982年4月〜1984年3月 神戸大学医学部付属病院医員(内科研修医)
1984年4月〜1988年3月 神戸大学大学院医学研究科博士課程(内科系専攻)
1988年4月〜1992年5月 神戸大学助手(医学部生化学第一講座)
1992年6月〜1994年11月 神戸大学講師(医学部生化学第一講座)
1992年7月〜1995年1月 カリフォルニア大学サンフランシスコ医学校客員研究員
1994年12月〜2002年3月 広島大学教授(医学部生化学第一講座)
2002年4月〜2009年11月 広島大学大学院教授(医歯薬学総合研究科分子細胞情報学)
2008年4月〜2009年11月 広島大学大学院医歯薬学総合研究科・副研究科長
2009年12月〜大阪大学教授(医学系研究科分子病態生化学)


注釈
【上皮細胞】
体表面を覆う「表皮」、管腔臓器の粘膜を構成する「上皮(狭義)」、外分泌腺を構成する「腺房細胞」や内分泌腺を構成する「腺細胞」などを総称した細胞。