研究紹介

インタビュー

一連の研究成果を生かした、がんの浸潤や転移のメカニズム解明

現在、菊池教授は、マウスの胎児由来の唾液腺組織(胎生13日)にWnt3a とFGF1とを加えることで、放射状の管に分化させる培養実験も進めている。「このときも、前述のものと同じ遺伝子が活性化されることがわかりました。私たちは、この遺伝子が細胞骨格をゆるませて伸長させ、細胞が伸長することが、細胞増殖のスイッチをオンにするのではないかと考えています。さらなる検証が必要ですが、この『細胞骨格の変化と増殖がカップルするしくみ』こそが、管をつくりあげる共通の基盤なのだと考えています」と菊池教授。

一方で、がんの約9割が上皮細胞由来であること、大腸がんなどにおいて、がん組織の浸潤先端部ではWntシグナルが活性化されていることが知られている。したがって、このようにがん組織でも増殖と運動が協調しているのかもしれない。この視点で、「管腔組織の形成のメカニズム」と「がんの浸潤や転移との関連」についても検討している。「私たちの研究により、がん組織の浸潤先導端の細胞で発現している遺伝子を網羅的に解析・特定し、その阻害剤を開発することなどが可能かもしれません。また、そのような遺伝子が、がんの悪性度のマーカーにつながる可能性もあると思います」。そう話す菊池教授は、がん細胞の増殖と移動がカップルすることで浸潤していくことなどを明らかにしつつある。

「生化学の手法を駆使して上皮管腔組織形成のしくみを知りたいというのが第一ですが、がんの浸潤転移の分子においても、前述の細胞骨格を制御する遺伝子の発現が上がっているかどうかといったことも調べ、ヌードマウスを用いた転移実験等を行い、バランスよく研究を進めていきたいと考えています」とする菊池教授。今後の成果に期待したい。

菊池 章 教授


TEXT:西村尚子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2012年11月20日