研究紹介

インタビュー

生体環境により近い3次元培養へ

この段階で菊池教授は、さらに生体環境に近づけた3次元での培養による検証が必要だと考え、マトリゲル内に上皮細胞を埋め込む実験を試みた。「まず増殖因子等を一切加えない状態で培養すると、細胞は4〜8細胞程度まで増え、嚢胞とよばれる袋状の構造を形成しました。これは、上皮細胞は基質とは逆の方向に内腔側を作るという性質に基づく。ただし、この状態で放っておくと、その後は変化せず、大きさもかたちも一定のままでした」と菊池教授。その理由については、「生体内では、極性化した上皮細胞は上皮組織を形成しきわめて”静的“な状態を保っています。増殖を抑制する何らかのシステムがはたらいているのでしょう。3次元の培養環境において内腔を有する構造をつくりあげた上皮細胞は、そこで増殖をストップさせたのだと思います」と話す。

【Combination of Wnt3a and EGF induces tube-like morphogenesis in 3D culture】

気管支や乳管、尿細管などの管は、この嚢胞の状態を「ある方向」に伸長させたものだと解釈できる。では、どうすれば嚢胞を伸ばせるのか? ここでも菊池教授は、成長因子(EGF)とともにWnt3aを加える培養実験をした。「すると、嚢胞を形成していた細胞が伸び始め、伸びている細胞が増殖する現象がおきました」と菊池教授。さらに遺伝子発現についても網羅的な解析をしたところ、EGFとWnt3aを受容した細胞内で「細胞骨格を制御するある遺伝子」の発現が誘導されることがわかったという。

話を整理すると、およそ以下のようになる。静的な安定した嚢胞構造をとる上皮細胞にEGFとWnt3aを加えると、これらの2因子を受容した細胞内にシグナルが入る。すると、その細胞で細胞骨格の制御に関わる遺伝子の発現が促進され、細胞骨格がゆるむ。ゆるんだ結果、細胞はある方向に伸びていく。同時に、伸びゆく細胞の増殖スイッチがオンになり、細胞が増え始める。こうして細胞の伸長と増殖が協調して行われ、管が構築されていく。

【Epithelial cell morphorogy is elongated at the leading position of tubulogenesis 】

注釈
【細胞骨格】
細胞質内に存在し、細胞の形態を維持し、また細胞内外の運動に必要な物理的力を発生させる細胞内の繊維状構造。
細胞骨格はすべての細胞に存在する。かつては真核生物に特有の構造だと考えられていたが、最近の研究により原核生物の細胞骨格の存在が確かめられた。