研究紹介

原因ウイルス感染後の免疫制御で成人T細胞白血病の発症予防を目指す 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 免疫治療学分野 神奈木真理 教授 成人T細胞白血病(ATL)はウイルスによって引き起こされる白血病で、ウイルス保持者は日本に100万人以上いると推測される。神奈木教授は、ウイルスに感染したときの免疫機構を明らかにし、治療や発症予防のためのワクチン開発に取り組んでいる。
ウイルスで起こる白血病

白血病は、白血球や赤血球、血小板などの血液細胞が「がん」になる病気だ。患者数が多いのは骨髄性白血病で、遺伝子の異常により起こる。ところが、ウイルス感染によって起こる白血病がある。それが成人T細胞白血病(ATL)だ。

ATLは、1977年に京都大学の高月清博士(現 熊本大学名誉教授)らがはじめて報告した。白血球のうちT細胞(リンパ球の一種)ががん化しており、九州・沖縄出身者に多いことが特徴だったが、当初は原因がわからなかった。1981年に、日沼頼夫博士(現 京都大学名誉教授)らが、ATL細胞株からヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)を発見し、これがT細胞に感染し、感染細胞を異常に増殖させることが明らかになった。急性型のATLでは進行が速く、強い免疫不全を伴い死に至る場合も多い。

HTLV-1に感染してからATLを発症するまでには数十年かかり、一部の感染者が中年以降に発症する。HTLV-1に感染してもATLを発症する人と発症しない人がおり、発症率は5%程度とされる。母乳や性交渉、輸血で感染し、日本国内に100万人以上のウイルス保持者がいると推定されている。

【ATLの特徴と分類】

ATLは大きく4種類に分けられる。血液中に現れるATL細胞(がん化したT細胞)は、特徴的な花びらのような形をした核をもつので、「花細胞」と呼ばれる。

ATLの治療には、これまで様々な抗がん剤を用いた化学療法が行われてきた。また、2012年に、ATL細胞に特徴的に発現するCCR4という分子をターゲットにした抗体医薬モガムリズマブ(商品名「ポテリジオ」)が製造承認を受けた。あとで述べるように、他にも治療法が開発されている。

一方、予防や発症予測の研究はあまり進んでいない。「母子感染のリスクが一番高いため、2010年には、妊婦検診の項目にHTLV-1抗体検査が加えられ、陽性の場合は告知して授乳の指導をすることになりました。これによって赤ちゃんへの感染はかなり防ぐことができます。しかし、感染を告知されたお母さん自身が将来病気を発症する危険があるかどうかを予測する方法や、発症を予防する方法は今のところありません。これらを急いで開発する必要があります」と神奈木教授は話す。

神奈木 真理
神奈木 真理(かんなぎ まり)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 免疫治療学分野 教授

1979年 関西医科大学医学部卒業
1979〜1981年 京都市立病院内科研修医
1981年 京都大学大学院博士課程(第一内科)
1984〜1987年 米国ハーバード大学ニューイングランド霊長類研究センター研究員(Norman Letvin博士)
1988年 医学博士取得、大学院修了。学術振興会特別研究員(京都大学ウイルス研究所)
1989年 熊本大学医学部助手。その後、講師、助教授(感染防御学講座)
1995年 東京医科歯科大学大学院教授(免疫治療学分野)