研究紹介

インタビュー
新たな治療法のしくみを明らかに

2000年ごろから、ATLに対して造血幹細胞移植という治療がさかんに行われるようになった。造血幹細胞は様々な血液細胞をつくり出す細胞で、リンパ球もつくる。患者の兄弟などの造血幹細胞を患者に移植すると、移植した細胞からつくられる免疫細胞が腫瘍細胞を攻撃し、腫瘍細胞の増殖を抑えることができる。

神奈木教授らは、この治療によって症状が落ち着き安定した状態のATL患者の移植前と移植後のリンパ球を解析した。移植前の患者の血液には、Tax特異的CTLが存在するが、抗原であるTaxをもつ感染細胞で刺激しても増殖しない。ところが、移植後の血液を同様に刺激するとTax特異的CTLが選択的に増殖した。さらに、移植後増殖したCTLが、Taxのうちのどの部分を認識しているか(認識される部分を「エピトープ」という)を詳しく調べた結果、おもな認識エピトープが4つ判明した。

この研究結果について神奈木教授は、「移植前は、患者さんのCTLは感染細胞に応答しなかったのですが、移植によってCTLの免疫が再び構築され、感染細胞に対して応答するようになったと考えられます。さらに、見つかった4種類のエピトープは、幸いにも、日本人ATL患者に多い白血球型(HLA)の感染細胞が提示するものでした。現在、これらのエピトープは、患者さんがどんなCTLをもっているのかという検査や、あとでお話しする治療用ワクチンの作製に役立っています」と説明する。

【CTLが認識するTaxのエピトープとその応用】

9つのアミノ酸からなる4種類のペプチドが主要エピトープとして見つかった。これらのエピトープは、CTLの検査に利用されている。それぞれのHLAとエピトープをつないだテトラマーを用いるとCTLを検出することができる。また、これらの中から選んだエピトープを用いてATL治療ワクチンがつくられ、臨床試験段階にある。

さらに、ATLの治療には、インターフェロンを用いる方法も使われている。最近、神奈木教授らは、この治療法のしくみを明らかにした。

HTLV-1に感染した人の血液にはウイルスの遺伝子があるにもかかわらず、ウイルスのタンパク質が見つからないことが知られている。つまり、遺伝子によってウイルスの存在は示されるものの、ウイルス本体がみつからないのだ。しかし、HTLV-1感染者はウイルスに対する抗体をもっているし、感染者の血液細胞を培養すると数時間で大量のウイルスが発現する。このことは長年の謎だった。

ウイルスは自分自身で増殖する能力がないので、宿主(感染相手)の細胞に入り込み、自分の遺伝子をもとに宿主細胞にタンパク質などをつくらせ、増殖する。しかしHTLV-1の場合は、細胞内でウイルスの遺伝子が読み取られず、じっとしているのだろうか。

この謎を解く中で、神奈木教授らはHTLV-1感染細胞を上皮細胞などと一緒にしておくとインターフェロンの応答が起こり、それによりHTLV-1のタンパク質の発現が抑えられることを見いだした。この抑制は可逆であり、感染細胞だけを再び取り出すとウイルス発現が回復する。インターフェロンとは、ウイルスなどの侵入に反応して細胞が分泌するタンパク質で、さまざまな因子を誘導してウイルスの増殖を抑える働きをする。このような免疫は自然免疫と呼ばれ、特定の抗原に対してCTLがつくられるような獲得免疫とは別の免疫系だ。

この結果について神奈木教授は「病原性の強いウイルスがインターフェロンによって抑えられるのには驚きました。どうやらHTLV-1の遺伝子はじっとしているわけでなくRNAレベルでは発現しているのですが、インターフェロンがブレーキをかけてウイルスタンパク質の発現を低レベルに維持しているようです。感染者の体内では、「インターフェロンを代表とする自然免疫でウイルスの遺伝子発現を抑制し、CTLを代表とする獲得免疫でウイルス遺伝子が発現した細胞を攻撃する」という二重の防御でHTLV-1感染細胞の病原性を抑えていると考えています」と説明する。インターフェロンを用いた治療効果は感染細胞のこの性質によるもので、外からHTLV-1感染細胞にインターフェロンを加えると、ウイルス発現レベルはさらに下がり抗がん剤への感受性が高まる。しかし、残念ながらこの効果は根治的ではない。