研究紹介

インタビュー
がんの再発や転移に関わるがん幹細胞

がんの患者数は増え続けており、1年間に新たにがんにかかった人は、2010年の推計値で80万人を超えている。多くの人は、働きざかりの50〜60代に発症しており、がんによる社会的な損失は大きい。石井特任教授らが、50〜60代に発症したがん患者の腫瘍細胞の遺伝子を調べてみると、35歳くらいのときにすでに遺伝子の変異が始まっており、発症するまでに長い時間がかかっていることがわかった。

「遺伝子が変異し、がん細胞ができても、そのほとんどはアポトーシス(細胞死)で消えてしまいます。しかし、一部は生き残り、またがん細胞ができるのです。これを長い間繰り返し、50〜60代でついに発症すると考えています」と、石井特任教授はがんの発症プロセスについて説明する。また、発症後、腫瘍を摘出したり抗がん剤で治療したりしても、残ったごくわずかながん細胞が、転移や再発を引き起こすことがある。

こうした現象は、「がん幹細胞」の存在で説明されることがわかってきた。これまで、がん細胞は遺伝子の変異によって生まれ、それが異常に増殖して腫瘍をつくると考えられてきた。ところが、抗がん剤が効かない難治性のがん細胞の性質を調べると、「がんの親玉」ともいわれる新たな細胞が見つかり、がん幹細胞と呼ばれるようになった。がん幹細胞は、ふつうのがん細胞とは違って、幹細胞に似ており、自己複製能と多分化能という性質をもつ。つまり、この細胞は、細胞分裂する際、自分と同じ細胞をつくることもできるし、がん細胞をつくることもできるのだ。そのほか、分裂が遅い、抗がん剤がききにくい、いつ活動を始めるかがわからない、などの特徴がある。

抗がん剤などによっていくらがん細胞を死滅させても、ごく少数のがん幹細胞は生き残り、じっとしている。そして、あるタイミングになると活動を始め、分裂してがん細胞をつくり、それが増殖して腫瘍になると考えられている。さらに、がん幹細胞が、がんの再発や転移に深く関わることもわかってきた。「治療をしても、がん幹細胞からがん細胞が供給される限り、がん組織はなくならないでしょう。がんを根治するためには、がん幹細胞を取り除かなければならないのです。そこで、今行われているがん治療に、がん幹細胞に対する治療を加えることが有効だと考えています。そのために私たちはがん幹細胞特有のターゲットを見つけ出し、それに対する薬の開発を進めています」と石井特任教授は話す。

【がん幹細胞】

手術や抗がん剤治療などをしても、がん幹細胞が残っていれば、それからがん細胞がつくられ、がんが再発したり、転移したりする。がんを根治するにはがん幹細胞に対する治療が必要である。