研究紹介

インタビュー
がんの浸潤を抑える分子を発見

さらに石井教授が注目しているのはがんの浸潤の過程だ。浸潤とは、上皮細胞が変化してできたがん細胞が、上皮細胞の下にある基底膜という膜を通り抜け、その下にある正常組織に広がっていく現象だ。浸潤した先に血管やリンパ管があれば、がん細胞はそこに侵入し、血液やリンパ液の流れに乗って、遠い組織に転移する。

石井教授らは、蛍光標識した大腸がん細胞をマウスに移植し、消化管内でがん細胞が正常な組織に広がっていく様子を2光子励起顕微鏡でイメージングすることに成功。さらに、がん細胞が血管の網目をくぐりぬけて血管の外へと動く様子をとらえた。

続いて細胞周期によって色が変わる蛍光プローブ(Fucci)をがん細胞に組み込み、がん細胞が分裂して増殖する様子と浸潤する様子を同時に観察した。これにより、動きが活発で浸潤能が高いがん細胞は、細胞周期がS/G2/M期(DNA合成期〜分裂期)にあることがわかった。さらに、この周期にあるがん細胞をより分けてどのようなタンパク質が働いているかを調べたところ、細胞の動きを活発にするARHGAP11Aというタンパク質の発現が高かった。「このARHGAP11Aの発現を抑えられれば、大腸がんの浸潤を抑えられるはずです。そこで、大腸がんモデルマウスにARHGAP11A遺伝子の発現を阻害するRNAを投与したところ、腫瘍が広がるのを抑えることができました」。

石井教授らは現在、こうしたデータにもとづきARHGAP11Aを標的とした新しい治療法を開発している。既存のがん治療薬は、がん細胞の増殖を抑えることに主眼を置いたものが多いが、がん細胞の増殖と動きに同時に着目することで、これまでになかった「がんの浸潤を抑える治療薬」がつくれそうだ。

【浸潤するがん細胞から新しい分子を同定】

緑色の細胞が、S/G2/M期にあるがん細胞。色の違いを利用して、細胞周期ごとに細胞をより分け、緑色の細胞からARHGAP11Aを発見した。

注釈
【Fucci】
Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator。理化学研究所の宮脇敦史氏が開発。