研究紹介

インタビュー
乳がんが骨転移しやすい理由

乳がんは骨に転移しやすいという性質がある。なぜ骨に転移しやすいかについて、近年、多くのことがわかってきた。

骨は一見、変化のない安定した組織のようだが、実際は古い骨を壊して新しい骨をつくるという「骨代謝」が活発に行われている。骨を破壊する「破骨細胞」と骨をつくる「骨芽細胞」という2種類の細胞がバランスよく働くことで、正常な骨代謝が維持されている。ところが、骨組織にやってきたがん細胞は、破骨細胞が骨を壊すしくみを利用して、骨に住み着いてしまうのだ。

がん細胞は、PTH-rPやIL-6という因子を出し、これらの因子の刺激によって骨芽細胞の表面にRANKLというタンパク質が発現する。このRANKLが、破骨細胞の元となる「破骨前駆細胞」の表面に存在するRANKというタンパク質と結合することで、破骨前駆細胞は分化が促され、成熟した破骨細胞になる。破骨細胞が骨を溶かすと、骨の中に含まれるTGF-βやFGF、BMPという物質が放出され、これらはがん細胞を刺激して増殖を促す。「さらに、最近の論文から、がん細胞表面のJag1が、破骨前駆細胞のNotchに働いて、破骨細胞分化を促進させていることがわかってきました。破骨細胞とがん細胞は互いに助け合う関係にあり、このサイクルが回ることで、がん細胞は骨に転移し、骨を壊しながら病巣を広げていくのです」。

20年ほど前から、井上教授はNF-κBを活性化するTRAF6というタンパク質を研究している。「TRAF6の欠損マウスを作製したところ、骨が異常に硬くなったり変形したりする大理石骨病という病気になりました。大理石骨病はヒトにもある疾患で、破骨細胞の機能不全によって引き起こされます。つまり、TRAF6によって活性化されたNF-κBが破骨細胞の形成に必須のシグナルを担っていることを明らかにしたわけです。がん細胞におけるNF-κBの活性化ばかりでなく、この当時発見した破骨細胞という正常細胞におけるNF-κBの活性化もがんの悪性化に寄与することがわかり、いまさらながらNF-κB研究の重要性を認識しています」と井上教授は解説する。

【がん細胞が骨転移するしくみ】

がん細胞から放出されたPTH-rpやIL-6の刺激によって、骨芽細胞にRANKLが発現し、これが破骨前駆細胞のRANKと結合して成熟した破骨細胞になる。破骨細胞によって骨が壊されると、骨に含まれるTGF-β、FGF、BMPが放出され、これらの因子の刺激によってがん細胞は増殖する。また、がん細胞のJag1が破骨前駆細胞のNotchシグナルを活性化することも最近報告された。