研究紹介

インタビュー
NF-κBの活性化は乳がん幹細胞の維持に関与していた

腫瘍は、さまざまな性質をもった細胞が集まって形成されている。腫瘍中には、がん細胞を生み出す大元となる「がん幹細胞」という親玉が潜んでいることが、近年わかってきた。がん幹細胞は、抗がん剤による化学療法や放射線治療では死滅させることができず、がんの転移や治療後の再発を引き起こす原因と考えられている。

「トリプルネガティブ乳がんの悪性度の高さは、がん幹細胞によるものかもしれません。そこで、NF-κBの活性化と、乳がん幹細胞との関係を調べてみました。4種類の乳がんにおいて、NF-κBの活性と、腫瘍中のがん幹細胞の割合を比較したところ、Luminal-like乳がん、ERBB2過剰発現乳がん、Claudin-low乳がんでは、NF-κBの活性とがん幹細胞の割合に相関は見られませんでしたが、Basal-like乳がんでは、NF-κBの活性が高いほど、がん幹細胞の割合が高いことがわかりました。NF-κBは、Basal-like乳がんに特異的に、がん幹細胞の維持に働いていることが想定されます」と井上教授は説明する。

ところで、そもそもNF-κBはどのような細胞で強く活性化しているのだろうか。もっとも考えやすいのは、がん幹細胞という可能性だ。しかし、がん幹細胞と非がん幹細胞(がん幹細胞ではない周囲のがん細胞)で、NF-κBの活性の強さを調べると、両者は同じくらいだった。そこで考えられるのは、がん幹細胞の周囲にある細胞でNF-κBが活性化し、その細胞からいろいろな刺激が出て、がん幹細胞が維持されているのではないかという可能性だ。

それを調べるために、NF-κBの活性を上げたがん細胞とNF-κBの活性を変化させていないがん細胞とを10:1の細胞数比で混ぜて培養すると、NF-κBの活性を変化させていないがん細胞中に含まれるがん幹細胞の割合が増加した。逆にNF-κBを抑制したがん細胞とNF-κBの活性を変化させていないがん細胞とを混ぜて培養すると、NF-κBの活性を変化させていないがん細胞中に含まれるがん幹細胞の割合が減少した。「この結果から、周囲のがん細胞のNF-κBの恒常的活性化によるシグナルが、がん幹細胞に働きかけることで、がん幹細胞の割合を増加させていると考えられます」と井上教授。

【NF-κBで誘導される細胞間シグナル伝達】

周辺の細胞におけるNF-κBの恒常的活性化によって、がん幹細胞の割合が維持される。