研究紹介

インタビュー

イメージングによってもたらされるがん治療の未来

イメージングをヒトに応用することで画期的な治療法が開発される可能性がある。また、生体内のがん細胞およびニッチの詳細が明らかになれば、発がんや転移といったメカニズムを解明でき、新しい診断や治療の方法が見出される可能性がある。

たとえば、がん切除に腹腔鏡手術を用いる場合、血管や臓器を傷つけないように極めて慎重に手術を進めるため、開腹手術に比べ時間がかかりすぎる問題がある。しかし、危険な血管をイメージングしながら手術することができれば、格段に手元の作業が楽になり、安全で早い光ナビゲーション手術が実現する。また、がん細胞を特異的に認識する抗体を蛍光標識した薬ができれば、除去すべきがん細胞を見ながら手術する、所謂「がんメガネ」が実現する。もし、がんの悪玉であるがん幹細胞を特異的に認識する抗体を蛍光標識した薬ができれば、治療が難しいがん幹細だけ切除する夢の手術が実現するかもしれない。

その先には更なる展開が待っている。光遺伝学(オプトジェネティクス)などの光刺激だ。藻類のクラミドモナスが持つチャネルロドプシンや、古細菌が持つハロロドプシンといった物質は可視光に応答する性質がある。これら物質を使って神経細胞の膜電位を制御すれば、直接的に筋肉を動かす指令を出すことができる。簡単に言えば、光のオンオフで神経を自由に操れるのだ。また、光を照射すると活性酸素を出す物質をがん細胞の表面にある抗体に結合させ、光刺激を与えることでがん細胞を破壊するという治療法も考えられるという。

現在、今村教授の研究室には医学系の研究者のほかに、薬学部と理工学部の出身者も在籍している。薬学は創薬に、理工学は顕微鏡の開発に必須の領域である。学際的かつ柔軟な研究体制が今村研究室の強みだ。いずれ使い勝手のよいイメージングシステムが確立されたら、がん研究のみならず、他分野にも技術提供したいという。

「まずはイメージングによってがんに対する理解を深め、本質的な研究を進めたいと考えています。そして、その知見をもとに新しい診断や治療の方法を確立したい。このとき大切なのは人間の直観力です。目の前で起きている現象を実際に目で見て、みんなで議論を交わすことが新しい発見につながります」

サイエンスはこれまで“見る力”で発展してきたと、今村教授は指摘する。近年では最先端技術を盛り込んだ望遠鏡が開発されたことで、系外惑星が続々と発見され、第二の地球の存在までも示唆されている。「百聞は一見に如かず、ですよ」――そういって笑う今村教授の目はがん医療の未来を見つめているかのようだった。

このページのコンテンツには、Adobe Flash Player の最新バージョンが必要です。

Adobe Flash Player を取得

「Fucci」を入れ込んだ乳がん細胞の3D画像。平面の画像や動画のみならず、立体でも観察できるのがイメージングの魅力だ。

このページのコンテンツには、Adobe Flash Player の最新バージョンが必要です。

Adobe Flash Player を取得

このページのコンテンツには、Adobe Flash Player の最新バージョンが必要です。

Adobe Flash Player を取得

肉眼では見られない生体内の様子を視覚的にとらえることで、生体に対する理解は格段に深まり、医療の発展に貢献すると期待される。この画像は脳内の神経細胞を空間的にイメージングしたもの。神経細胞同士が突起を使ってネットワークを形成している様子を直観的にとらえることができる。

【がんを見ながら切除(未来の手術)】
がんを見ながら切除(未来の手術)」

将来的にはがん細胞を事前に染色する光ナビゲーション手術が可能だという。切除箇所が明確になれば、正確かつ迅速に手術を進められるので、患者の負担が軽減される。

TEXT:林愛子 PHOTO:荒井邦夫
取材日:2012年2月10日