研究紹介

インタビュー

がんの増殖を止めるためには“兵糧攻め”が有効

先述の通り、がんの増殖や転移には血管の新生が大きくかかわっている。新しい血管はがん細胞が近傍の血管を引き寄せるようにして作られ、がん細胞は新しい血管から栄養や酸素を吸収する一方で、がん細胞を全身に送り込む。血管に入ったがん細胞は指向性の高い場所まで移動し、血管の外に出て転移巣を作って増殖する。その後も血管新生と転移のループは繰り返される。

「攻撃を防ぐためには外部との接触を遮断し、水や食料の枯渇を図る“兵糧攻め”が有効です。海外ではガリア戦争におけるアレシアの戦いで、日本では豊臣秀吉の高松城水攻めで有名な戦術です。がんの場合で言えば、血管新生を阻害することが兵糧攻めに相当します」

今村教授はがん細胞を移植したマウスに、血管を光らせる薬剤と抗VEGF抗体という血管新生阻害薬を投与して実験を行った。抗VEGF抗体の効果は絶大で、なんと投与直後からマウスの血管の発達に変化が見られた。投与なしの個体は血管がどんどん作られて血管網が拡大したのに対して、抗VEGF抗体を投与した個体では大きな変化がなかったのである。

従来の手法では観察の都度、解剖して臓器や組織を取り出すため、個体差を十分に考慮する必要があった。多くの場合はサンプルデータの量を確保し、統計的な処理を施すことで全体をとらえる手法を採る。しかし、イメージングはそれぞれの個体に対して、薬剤を投与する前と後の状態を経時的に追えるのが特徴だ。仮に個体Aの投与前の状態と、個体Bの投与後の状態が酷似していたとしても、それぞれの個体に対して投与前後の変化分を導けばよいので、従来の手法と比べて格段に精度の高い研究結果が得られるのである。

また、リンパ節転移も重要なテーマであることから、今村教授はGFPを発現するがん細胞を移植した担がんマウスにAngioSenseを静脈注射するとともに、異なる波長のAngioSenseを直接がんに注射し、がん(緑色)、リンパ管(赤色)、血管(青色)を同時にイメージングする手法を開発した。1枚の画像で複数の組織の転移を同時に見られることで、今までにない気づきがあるという。

一口に「がん」と言っても、想像以上にがんは複雑だ。乳がんでは骨転移が多く、大腸がんでは肝臓への転移が多いのは、がん細胞が均一でないことの証である。また、がん細胞には多分化能を持つ幹細胞のようなものがあり、それが発がんや転移とかかわりを持つと考えられている。そして、がん細胞を取り巻く免疫系や血管といった微小環境(ニッチ)も発がんや転移と関係するという。今村教授はイメージング技術を発展させることで、ニッチの解析を含め、がんの本質に迫りたいと考えている。

【がんを兵糧攻めにする!】
がんを兵糧攻めにする!

血管新生を阻害する薬剤「抗VEGF抗体」を投与することで、がん原発巣と既存の血管の間には新しい血管が作られなくなる。すると、原発巣は栄養や酸素を補給する道を断たれ、がん細胞を血管に送り込むこともできず、孤立する。すでに転移巣ができていたとしても、血管が新生されなければ、やはり孤立するので、増殖もさらなる転移も阻害される。今回のイメージングによって、血管新生阻害剤抗VEGF抗体が見立て通りに働いていることがわかった。

【アバスチンのがん血管に対する作用】
アバスチンのがん血管に対する作用

イメージング画像だけを眺めても血管網の発達には個体差があるため、抗VEGF抗体を投与した効果なのか、個体の特性なのかが判然としない。そこで、イメージング画像を変換してシグナル面積を算出。抗VEGF抗体投与の前後の変化を個体ごとに定量化した。

注釈
【抗VEGF抗体】
血管内皮増殖因子VEGFと特異的に結合することで、血管が新しく作られるのを抑える働きをする。一般名はベバシズマブ。2007年に厚生労働省がアバスチン(商品名)を承認した。対象は「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」。

【センチネルリンパ節】
がん細胞がリンパ流に乗って最初に到達するリンパ節のことであり、見張りリンパ節」とも呼ばれる。具体的には、がんの病巣から流れ出たリンパ液が最初に入り込むリンパ節のこと。外科手術においてセンチネルリンパ節に転移がないと判断された場合は、リンパ節郭清が省略可能である。