研究紹介

インタビュー

活動を休止しているがん細胞の研究こそ本質

がんの発生や転移のメカニズムを解き明かすために無視できないのが細胞周期である。細胞周期には、活動を休止(分裂を停止)しているG0期、次の細胞周期に入るかどうかを決める準備段階のG1期、細胞分裂に備えてDNAを複製するS期、細胞分裂の準備をするG2期、細胞が分裂するM期という、4つのフェーズがある。蛍光プローブ「Fucci(フーチ)」を使えば、活動休止中のG0期またはG1期か、分裂・増殖に向けて活動しているS/G2/M期かを見極めることができる(動画参照)。

今村教授が注目しているのはG0期またはG1期の細胞だ。その理由は「がん治療の問題は抗がん剤や放射線治療に耐性を示すがんがあることで、そこに細胞周期がかかわっている可能性があるからだという。放射線治療は放射線を使ってDNAの合成を阻害し、細胞の異常増殖を防ぐことが目的なので、細胞が活動しているS/G2/M期に有効な治療法ということになる。逆に言えば、放射線治療に耐性を示すということはG0期またはG1期に留まっている可能性が高い。活動休止中のG0期やG1期に留まっている細胞は“冬眠中”のようなものだ。

G0期またはG1期に注目するもう一つの理由は、乳がんの場合、5年生存率を越えてから、がんの再発で亡くなるケースが少なくないからだ。

「乳がんのがん細胞のなかには、骨髄のなかで活動を休止し、何年も経ってから再び目覚めて活発化するものがあるのだろうと見ています。がん細胞が再び活性化するメカニズムはよくわかっていませんが、骨を壊す破骨細胞や免疫細胞などが関与している可能背があり、もしも骨髄のなかで眠っているがん細胞の詳細を明らかにできたら、新しい治療法を開発できるはずです」

たとえば、冬眠中のがん細胞を眠らせたままにできれば、再発の可能性は極めて低くなる。あるいは、がん細胞を自在に目覚めさせることができたら、最適のタイミングで抗がん剤や放射線治療を行えるだろう。いずれにしても、冬眠中のがん細胞を取り出して、その活動を制御する方法を見出さなければならない。一見すると遠回りに映るかもしれないが、「眠っているがん細胞にこそ、がん研究の本質がある」と今村教授は考えている。

【Fucci】

Fucci

このページのコンテンツには、Adobe Flash Player の最新バージョンが必要です。

Adobe Flash Player を取得

理研・脳センター・細胞機能探索技術開発チーム
JST・ERATO・宮脇生命時空間情報プロジェクト
宮脇敦史 先生、阪上 - 沢野朝子 先生、

愛媛大学 大学院医学系研究科
JST・CREST・光展開
今村健志 先生

細胞周期には、細胞分裂を停止しているG0期、次の細胞周期に入るかどうかを決める準備段階のG1期、DNAを複製するS期、細胞分裂準備中のG2期、細胞分裂するM期という、5つのフェーズがある。「Fucci(フーチ)」は蛍光プローブの一種で、G1期に増加するタンパク質「Cdt1」と、S/G2/M期に増加するタンパク質「Geminin」にそれぞれ赤色と緑色を発する蛍光タンパク質を結合させている。Fucciを導入すれば、活動休止中の細胞は赤色に、そのほかのフェーズにある細胞は緑色になるので、細胞周期をリアルタイムで観察することができる。
Fucciを使うと細胞分裂の様子をリアルタイムでイメージングできる。正常な細胞は分裂して増えすぎると活動を休止する。画面ではG1期を示す赤色の細胞が増えたところで、動きが止まる。ところが、がん細胞は無秩序に増殖するので、細胞分裂に歯止めがかからない。画面では細胞が画面いっぱいになってもなお、細胞が活動中であることを示す緑色が次々と出現している。

注釈
【Fucci(フーチ)】
理化学研究所の宮脇敦史チームリーダーらによって開発された蛍光プローブ。「Fucci」とは「Fluorescent ubiquitination-based cell cycle indicator」の略。宮脇リーダーらはFucci以外にも特定の波長の光を受けて緑色から赤色に変化する蛍光タンパク質「Kaede」を開発している。このKaedeを使えば細胞の移動経路が詳しく解明できる可能性があるという。たとえば、がん細胞が肺に転移する場合は骨髄の細胞が肺への転移をアシストすると言われている。なぜ正常なはずの骨髄細胞ががん細胞の“悪事”を手助けするのか。今村教授は仮説として“がん細胞による骨髄細胞の洗脳”を指摘する。がんに限らず、細胞は常に体内を巡っている。がんは自分のテリトリーに入ってきた骨髄細胞をそそのかし、自分に都合よく働くように洗脳するというわけだ。Kaedeの光応答機能を活用すれば、骨髄細胞の移動履歴が残るので、この仮説を証明できる可能性がある。